[原子力産業新聞] 2001年5月10日 第2086号 <4面>

[原産年次大会] セッション1 「原子力−地球環境になぜ必要か−」

セッション1では、地球環境保全の観点から原子力開発利用をめぐる先進国や途上国の政策に焦点をあてながら、社会の持続的発展のためにいかに原子力が有効かを、パネル討論を通して考えた。昨年の COP6 では CO2 削減の効果的な技術として原子力を認めるかをめぐり日本と欧州などで意見が対立した点などを踏まえながら、森嶌昭夫地球環境戦略研究機関理事長が「地球温暖化防止の対策とは」を基調講演。続くパネル討論で、L.エチャバリ経済協力開発機構/原子力機関 (OECD/NEA) 事務局長、A.ハワード米原子力エネルギー協会 (NEI) 上級副理事長、宮本一関西電力副社長、李東暉中国国家原子能機構副主任らが環境保全に果たす原子力の役割をあらためて検証し、効果的な地球温暖化対策として原子力技術の利用を訴えるセッション参加者の共同声明を採択した。


原子力に投資継続を

森嶌昭夫氏の基調講演 最近出された気候変動に関する国際パネル (IPCC) の報告書でも一層の気温や海面の上昇の深刻化が指摘されている。温暖化の影響は現時点では目に見えにくいが、我が国もその対策に真剣に取り組んでいる。日本の CO2 安定化は98年時点では90年比で5.6%増加しているものを COP3 の約束であるマイナス6%まで削減しなければならない厳しい現実がある。

現在の原子力は一次エネ供給の13.7%を占めていて、原子力発電は20%の CO2 削減に寄与している計算になる。新エネルギーの供給が進んでいるとみられる2050年頃には世界のエネルギー需要全体も倍増しているはずで、天然ガスなどの輸入も日本にとっては難しくなる。そうすると、数10年間は原子力を重要な選択肢として、政府が技術や教育に対しても新エネヘの投資と少なくとも同程度に行う継続する必要がある。原子力が新エネへの二者択一ではなく、リスクやコストベネフィットの分析を基に将来のエネルギー政策を考えていくことが求められる。

宮本氏 温暖化問題はとりもなおさずエネルギー問題であり、世界の人口増加と経済成長のためには3つのEの達成が課題だ。COP3 で決められた我が国の CO2 削減目標達成の政府シナリオは省エネ、新エネ、原子力の推進が前提。温暖化防止はこうした対策の「合わせ技」で進めるしかない。電気事業は原子力を中心に自主的・積極的に温暖化対策に取り組んでいる。原子力発電の一層の推進には安全を大前提に国民合意を得ることが不可欠であり、新規立地、高水準利用率の維持・向上、プルサーマル利用やバックエンド対策が課題だ。

ハワード氏 ブッシュ新政権のエネルギー政策ではおそらく、今後20年から50年の間原子力が重要な部分を与えられるだろう。我々は大気浄化法に基づいて汚染物質の排出削減や、現在は CO2 削減に努力を傾けている。産業界の取組みとしてはあらゆる CO2 削減方法を駆使すべきであり、原子力を京都メカニズムのオプションとして考えるべきだ。92年のリオ宣言の精神に基づく持続可能な発展のためには、先進国は資源を活用し途上国に移転する必要があり、持続可能性は全ての国が全てのオプションを用いて初めて実現される。こうした観点から原子力はあらゆるエネルギー計画の中にオプションとして含まれるべきであろう。活力あるエネルギー生産は米国のみならず世界にとり必要なことだ。

李氏 中国において開発段階に即した環境保全への取組みがなされている。中国でも石炭火力と比較して原子力は放射線、化学物質などの発生など環境面から様々な点で優位性を示されている。

中国では第10次5か年計画で原子力を適切に開発することを明確に打ち出しており、エネルギー構造を適正化することで温室効果ガス排出削減を促進することにしている。中国は原則的に京都議定書を支持する。「差異のある責任」の立場で COP6.5 に臨むが、原子力が適切に CDM に認められるとともに早期の議定書発効を望んでいる。

エチャバリ氏 OECD 諸国などでここ数年原子力発電は経済性や安定性を高めてきた。設備利用率の高くなってきていることも資本集約的な観点からは重要。OECD は最近、原子力が本当に持続可能エネルギーかの包括的な分析結果を発表した。持続可能な開発は環境面プラス社会、経済を総合的な開発を捉えて初めて可能。原子力の経済性は競争市場でも十分機能しており、将来資本集約性を低めることも考えられる。環境の点からは、原子力発電は温暖化ガスを出さず、規制の枠組みにより環境への安全性が確立している。社会的にみると、原子力は能力に優れた人的資本を次世代に継承できるが、原子力政策への市民の参画が将来さらに発展すべき点。OEOD は、エネルギーの基準の評価を行う必要がある。こうした評価によって原子力の持続可能エネルギーとしての位置づけが明らかになろう。


COP6.5 にむけ共同声明採択

各パネリストの発言を踏まえ、森嶌氏は COP6.5 (COP6 再開会合) は、米国が現時点で京都メカニズムとは違う提案をするとは考えられないとしたうえで、我が国は欧州が各国に政策を押しつけることを控えるよう交渉したり、米国の出方に対するシナリオを予め考えておくべきだと指摘。国益に立脚し、各国の論理を分析し戦略を立てていくことが必要との考えを強調した。

最後に秋元勇巳議長が COP6 再開会合に向け、(1) 安全性を確保しつつ気候変動問題解決のために原子力の効果的利用を促進する (2) 個々の国の選択肢として CDM や共同実施に原子力利用を促す (3) C02 削減技術として原子力発電を技術として認めること−などを求めるパネリストによる共同声明を採択した。


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