[原子力産業新聞] 2001年5月17日 第2087号 <4面>

[原産年次大会] セッション5 電力自由化の中で再評価される原子力

前号に引き続き、第34回原産年次大会 (最終日・4月27日) の概要を紹介する。セッション5では、東京電力の勝俣恒久副社長を議長に英国原子燃料会社 (BNFL) のN.アスキュー社長、学習院大学経済学部の西村陽・前特別客員教授、米国ニューマーク・アソシエーツ社のN.ニューマーク社長、フィンランド・ティオリスーデン・ボイマ電力会社 (TVO) のM.トイボラ特別顧問が講演。近年の燃料費高騰により電力安定供給の重要性が再認識されるなか、原子力を再評価する動きが出てきていることから、電力自由化先進各国における事例が紹介された。


アスキュー氏 英国の電力業界ではこの10年間にコスト削減の圧力が強まり、企業は再び大口顧客の需要にリンクした以前の垂直型ビジネス統合に形を戻しつつある。米国の状況は州ごとに異なるが、カリフォルニアで電力危機が発生した理由としては、たった1年間で完全な競争市場に移行しようとしたことや電力供給が十分でない時期にそれを断行したこと、脆弱な送電設備などが挙げられる。また、発電コストと言うものは市場によって決定されるのに企業は顧客の大小に応じて価格を固定してしまっていた。一方バージニア州では、原子力の回収不能コストが回収できるよう十分な時間と体制を与えている。こうした例から自由化への移行には5年以上の時間と十分な余剰発電設備の確保が必要なことが教訓として得られた。大規模かつ個別に規制された供給グリッド構造を確保するとともにタテ型に統合された操業の維持も重要だ。BNFL としてはマネジメントを改革する計画を実行中で、これまで通り、品質や安全性、燃料サイクルにおける顧客要望などに応えていく考えだ。

西村氏 電力自由化による変化の本質は市場と競争がビジネスの基本的な評価基準になることを意味しており、電力供給が競争に委ねられれば相場の乱高下や投資の回収目通しなど、さまざまな点でリスクが生じることになる。市場・競争の時代では一つの発電所の利益貢献度が明確な数字で表されるようになり、電力会社ごとの電源構成は金融世界の投資ポートフォリオのような形で出来上がっていく。原子力は回収が長期にわたるため、短期任期の経営陣からは投資上の意志決定がされにくいというマイナス評価がある反面、長期的なコスト変動が小さいため顧客の買う電気や市場全体の動きを安定な状態に導く拮抗力となるというプラス評価点が指摘できる。より長い期間で安定度の高い電源ポートフォリオを作るためには原子力を長期国債のように一定のウェイトで組み込むことが合理的と言えよう。日本の原子力事業が市場・競争の中で強い競争力を持つための条件としては、(1) 仕入れや加工製造、流通、販売といったサプライチェーンを見直すなどコスト競争力を再構築する (2) 電力売買に金融スキルを使ったオプションを組み合わせるなど、優れた競争手法を見いだす (3) 価格の安定を望むという顧客ニーズを事業の中に取り込む−などが挙げられる。

ニューマーク氏 原子力発電所が安定かつ競争力のある発電コストで操業されている背景には、過去数年間の実績から大いに教訓を学んだほか、当初の予測に反して規制緩和が良い影響をもたらしたという事実がある。米国の電力会社の多くが、新たな発電設備で古い原子炉を更新するよりも、既存原子炉の運転認可を20年、延長するほうが割安との結論に達しているが、米国でも今後数年以内に新規原子炉を建設する可能性が高まってくると考えている。南アの ESKOM が開発している小型のモジュール式ガス炉 (PBMR) については、開発チームに参加しているエクセロン社が (可能性調査の結果が良ければ) 2002年にも米国での早期サイト申請を計画しており、その他の規制手続きの進行状況と並行して2003年にも建設・運転認可を申請する可能性が出てきている。原子力を取り巻く政治環境としては、周辺環境や住民の健康に影響を及ぼす化石燃料消費よりは潜在的に有利な状況。ただし、原子力推進者達は再生可能エネルギーや省エネ技術の潜在的な役割を排除することなく、むしろこれらによる解決策を積極的に押し進める心づもりで臨むことが必要だ。

トイボラ氏 フィンランドのエネルギー輸入依存度は72%に達しており、その産業構造や寒冷な気候のため国民1人当たりのエネルギー消費量も非常に高い。電力の55%を消費する産業部門を中心に今後の電力消費量は年率1.5%で推移すると予想されることから、2015年までに新たに380万kW の電源設備が必要になる。政府は将来の電力供給源には温室効果ガスの排出量が少ないことを優先に全電源オプションを保持すべきだとしているが、京都議定書に示された CO2 排出削減目標を達成する上で原子力が果たす役割については明確に国の気候プログラムに記されている。当社の昨年11月の申請は新規原子炉の建設に関する原則的な決定を政府に求めるもので、政府が決定した後は議会の批准が必要。企業が原子炉製造メーカーに入札を呼びかけられるのはその後になるが、当社はすでに、2つの既存の原子力サイトで環境影響評価を終えている。最短のシナリオでは年内に政府の原則決定、来年初頭に議会の承認、3年以内に建設作業を開始し、2008年には操業を始める計算だ。


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