[原子力産業新聞] 2001年6月14日 第2091号 <4面> |
[寄稿] 発信−原子力を考える若い世代のフォーラムから原子力推進に責任もち、将来世代への橋渡し役に日本原子力産業会議が4月24日から27日までの4日間、青森市において「21世紀の原子力−地球、エネルギー、環境の保全のために」を基調テーマとして、第34回原産年次大会を開催した。その機会をとらえ、原産会議の若手有志(筆者)が中心となり、今世紀初頭の社会で中心的な役割を果たすであろう国内外の若い世代に呼びかけ、「原子力の未来へ、今何をすべきか」をテーマに「原子力を考える若い世代のフォーラム」を25日に開催した。 フォーラムは、原子力への従事は不問として国内外の若手23名が円卓に集まり、原子力の将来について率直に意見交換する画期的な試みで約230名もの原子力関係者や一般市民、マスメディアらのオブザーバーを交え、盛況の中での開催となった。 あらかじめ参加者から応募のあった提言を区分して、「PA・教育」、「立地地域との対話」、「原子力の将来にむけて」という3テーマに分けてテーマ毎に提言発表および活気ある意見交換が行われた。 冒頭、海外から韓国とロシアの原子力学会にそれぞれ所属するネットワークである韓国ヤングジェネレーション・ネットワーク (YGN)、ロシア YDRNS、さらに英国の原子燃料加工メーカーの若手専門家から提言発表がなされた。日本 YGN も含めて、参加者の提言からは (1) 国内の原子力に従事する若手のネットワークの構築 (2) 原子力分野の先輩世代から若い世代への知識・技術継承、人材育成とその確保 (3) 若手によるパブリックアクセプタンス/パブリックコミュニケーションの促進−が必要という共通認識がうかがえた。 (1) は、「原子力」が発電のみならず、その知見が農業や医療をはじめ多くの分野に利用されているものの、産業の巨大化、縦割り化、細分化が顕著となり、多分野間のコミュニケーションがなされていない現状を改善しようとする試みである。 (2) は、原子力が社会になかなか容易に受け入れられない昨今、学生の原子力離れも顕著であり、多くの分野に知見を提供している原子力の将来への危機感を踏まえたもの。 (3) は、エネルギーセキュリティにおける原子力の必要性のみならず、原子力の最先端技術がもつ魅力と人間福祉への貢献、環境影響への負荷の少なさ、原子力技術の多岐の分野における応用について、先輩世代には難しい、若手らしく、オープンで制限のないアプローチで公衆の関心に訴えることである。特に、(3)は原子力開発戦略とは別枠で、特別な努力をしなくてはならないとの主張である。 それらの目的を達成する方法として、国際的な若手の連携・協調体制の重要性に鑑み、アジア・ヤングジェネレーション・フォーラムや IYNC2002 (International Youth Nuclear Congress) の開催計画、更に INU (International Nuclear University) 創設構想についても紹介された。 さらに、次のような前向きかつ多岐にわたる意見が出された。 ・原子力産業界内では原子力の必要性を強く認識していても一般公衆、反原子力派、メディアにはなかなか理解してもらえない現状にあることに対し、業界のアピール不足を自戒する声 ・業界の働きかけ以上に、国・政府がPRに主導的役割を果たすべきとする意見 ・小・中・高等教育の教育カリキュラムでエネルギー教育を充実する必要があるという意見 ・産業界内部の努力課題として原子力の現場で働く者の責任意識・レベル向上ならびに「もんじゅ」や JCO 事故による国民の原子力不信感の根底にある従事者のモラルハザードの予防が再優先であるとする意見 ・PR活動として既にあるシステムをうまく利用しきれていないのではないか。それとは別に、これ以上原子力の重要性を訴える人的・草の根的なコミュニケーションの必要はなく、アジア・太平洋地域における核拡散防止の観点という危機管理の面で新たな原子力アジェンダを確立することが急務だという意見 このほか、立地地域とのコミュニケーションでは、新規立地は国内外ともに困難な状況にあるが、既存の立地地域におけるパブリック・コミュニケーションの状況は受け手側にも満足できるものであり、むしろ立地地域以外へのアプローチに課題が残されているといった指摘もあった。 また、原子力誘致に伴う地域振興がより実利に根ざしたものであるような政策への転換を図ってはどうかという意見、立地問題は国や政府、立地地域、地域住民それぞれの赤裸々な利害調整・経済合理性を追求することでのみ解決され得るという見解もあった。 むろん、国・政府のエネルギー政策が明確化されていることが前提であるが、国を支える国民、とりわけ若い世代がエネルギー政策にどう働きかけができるのか、今後、議論していくことが重要であろう。原子力技術開発戦略のクリアなビジョンがなければ長期的に必要なパブリック・コミュニケーションに有効性はあり得ず、その議論を先輩世代に任せているだけでは原子力をとりまく現状−閉塞感の解決にはならない。 多くの一般公衆は原子力に関心を持っていない、あるいは危ないものであると思っていることも否めない。原子力専門家は原子力の世間からの乖離感を一般公衆の知識、理解不足と片付けてはならないし、傲慢になってはならない。どのような技術にもリスクはあり、率直に原子力のリスクについて語って欲しいし、知りたいと思っている声を原子力専門家は常に考慮することがパブリック・コミュニケーション上、重要である。 信頼感を得るためにどういう情報を流し、どうアピールしていくのか。今後の原子力をどうしたいのか、若い世代が徹底的に議論し、その戦略を明確化する一端を先輩世代と共に担うことである。原子力の利益享受者である過去・現在の世代と廃棄物処分等の重要課題を背負いしかも現在の利害調整に立ち会えない将来世代の橋渡し役として「なぜ原子力を推進してきたのか」「廃棄物をどう管理するのか」納得のいく説明をしていかなければならない今の若い世代に課された責務は大きい。若い世代は原子力の有する多大なポテンシャルを支えていくのだという強い使命感をもちつつも、その開発はエネルギー政策を選択する国民の意思と一体となって柔軟に対処していかなくてはならないことも忘れてはならない。 若い世代として何ができるのか、具体的に考えていくべき時代が到来した。 (桜井久子、福本多喜子) |