[原子力産業新聞] 2001年7月19日 第2096号 <2面>

[書評] 「創造への旅」が刊行

核燃料サイクルの本質問う

我が国は石油などの化石燃料資源が乏しいことや、ウラン資源の有効利用のため、核燃料サイクル路線を堅持しているが、東京電力柏崎刈羽原子力発電所でのプルサーマルの是非を問う5月の刈羽村住民投票により今後のサイクル計画の実施は大きな影響を受けるものと見られている。こうした時期に核燃料サイクルの本質を説き、核燃料利用方法の現実的な選択を示唆する本が刊行された。

本書はある科学者の自伝であるが、著者自身の研究と体験を基に原子物理学と原子力開発の進展を歴史的にやさしく記述しており、原子力問題を考える基礎を与えてくれている。

とくに旧動燃事業団がナショナル・プロジェクトとして進めた動力炉 (新型転換炉と高速増殖炉) の研究開発の実態、「もんじゅ」および再処理工場の事故・不祥事を契機に解体・再編に至った経緯を明らかにするとともに、核燃料サイクル構想への批判が展開されている。

また、本書は著者が研究してきた素粒子物理学の進展の模様を物語風に描いており、物質の究極についての興味を抱かせる。さらに20世紀を回顧して、世界と日本の政治、経済、社会、科学技術などの重要な事項を記録して織り込み、21世紀における基礎科学、基礎教育、国際協調の重要性を主張し、科学技術の創造および技術文明のあり方を示唆している。

激動の昭和時代を生きてきた波瀾万丈の人生、原子物理と素粒子物理および原子力開発の本質を的確な歴史感覚で描ききった内容のある書だ。

諸岡さとし著。四六判・並製、433頁。定価1800円 (税別)。問合せ・申込みは文芸社 (電話 03-3814-1177) まで。


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