[原子力産業新聞] 2001年8月2日 第2098号 <2面> |
[原子燃料政策研] 原子炉級プルトニウムの平和利用で提言国際的組織設け評価・検討を原子燃料政策研究会 (西澤潤一会長) は1日、原子炉級プルトニウムの核爆発装置への転用に合理性はないとする一方、地球環境保全のためにプルトニウムの平和利用促進を図るべきだとする提言をまとめ、総理大臣をはじめ関係閣僚、原子力立地自治体の首長、海外各国の首脳などに提出した。 同研究会では、原子力発電所 (軽水炉) の運転で生産されるプルトニウムを用いて核兵器を製造することが可能だとする米国内での主張に妥当性があるかどうか、電力経済研究所に委託して調査を実施。米国の技術資料や関係者との意見交換を通して、兵器級と原子炉級のプルトニウム組成の比較などを試み、単なる核爆発装置ではなく実用的な核兵器製造の可能性について調べた。 調査報告書はその中で、米国の代表的意見として、全米科学アカデミー国際安全保障・軍備管理委員会 (CISAC) と連邦議会技術評価局の見解を紹介。 CISAC が1994年に発表した資料では、プルトニウム・アイソトープのほとんど全ての組み合わせが核兵器製造目的に利用可能だとしており、兵器製造に最も有用なプルトニウム・アイソトープはあらゆる原子炉の運転により生産されると指摘。一方、原子炉級プルトニウムの利用は爆弾の設計を複雑にする理由があるとした。つまり、兵器級と違い原子炉級ではエネルギーの連鎖反応を最適条件より早期に引き起こす可能性が大きく爆発効果を設計値より大幅に下げることになるという点だ。 また、同じく94年の議会技術評価局の資料は、「高燃焼度の軽水炉燃料からプルトニウムを分離し、爆破圧力を持つ装置を作ることは可能」とする一方、原子炉級では Pu239 以外の自発核分裂性の高いアイソトープも蓄積され、中性子兵器として好ましくない性質を示す点に言及。こうしたアイソトープによる即発中性子が連鎖反応を早く始めることで爆発力を大幅に低下するとともに、兵器級のものに比べ発熱量が数段多いことを指摘している。 調査報告書はこうした技術的分析を基に、原子炉級プルトニウムでは核爆発を誘発しないという論拠自体は否定していないものの、米国側からの具体的な原子炉級プルトニウム兵器製造の経験の提示がなかった点も挙げながら、核爆発装置を作り出すことは可能だとしても、「発熱を伴う放射線源であり、爆発力が不確かで技術的に不安定な原子炉級プルトニウム核兵器を製造・保有するメリットがあるのか」との強い疑問を投げかけている。 原子燃料政策研究会では、今回の調査結果を踏まえ、米国を中心にこれまで提起されてきた原子力発電所からのプルトニウムによる兵器製造の妥当性を否定。そのうえで、原子炉級プルトニウムのもつエネルギーを積極的に平和利用することによって、エネルギー安定供給や地球環境の保全、人類社会の発展につなげることが重要だとして、提言をとりまとめた。 提言はその中で、ウラン資源の有効利用と温暖化防止のために使用済み燃料をリサイクルして取り出したプルトニウムが貴重な資源になる点を強調。欧米を中心に軽水炉でプルトニウム利用が広く行われ実績があることに触れ、こうした原子炉級プルトニウムに適切な評価を与え、効果的に使っていくための国際的な取り組みが不可欠だとして次の事項を求めている。 (1) 学識者などによる国際委員会を設け、原子炉級プルトニウムの利用・管理を正確に広範な角度から評価・検討し、国内的に同様な検討組織を設置すること (2) 原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウムの組成や技術的課題の明確化とともに、合理的な保障措置制度の検討 (3) 核不拡散条約 (NPT) 未批准国への批准働きかけ (4) プルトニウム施設へのテロ行為防止に向けた地域共同体のような国際組織の検討 (5) 核兵器解体からのプルトニウムを責任もって原子力発電所への燃料として利用し、ならず者国家やテロ組織への流出を防止すること --。 原子燃料政策研究会は、6月6日開催の総会を経て今回の提言を作成した。 |