[原子力産業新聞] 2001年8月23日 第2100号 <2面>

[インタビュー] 次期IAEA事務局次長 谷口富裕氏 (安全局担当)

「協力と競争」世界の場で日本の存在感高めるべき

「責任の重さを感じている。国際的に事故が予想される中でも平常心を心がけ、グローバルで長期的展望をもって臨みたい」と、国際原子力機関 (IAEA)事務局次長就任の抱負を静かに語る。日本人の事務局次長は3人目となるが安全局担当としては初。

世界の原子力施設の安全確保とともに事故の予防が任務だが、「なかでもロシアの RBMK 発電所や再び注目されているペブルベッド型ガス炉の安全性をどう評価していくか。運転のための人的・財政的な支援が弱くなる中で研究炉の安全確保も重要だ」と当面の課題を指摘する。当然、高レベル廃棄物処分や使用済み燃料管理なども含め燃料サイクル全体の安全確保にも厳しい視線を向ける。

同時に、放射線源などでの世界的な事故の多発にも懸念を示す。「工業や医療などで放射線の利用・研究活動の手足を縛らない形で、事故の再発防止をどう実現させるのか、ICRP 勧告の見直しと絡めて考えていきたい」。

「原子力の技術基盤確保に向けいかに人材や施設を維持・向上するか」も、安全確保の観点から指摘を忘れない。

就任早々の来月、安全をテーマとした国際会議や IAEA 通常総会を控える。「科学的で実効牲の高い安全確保と規制が大事。確率論的な手法とともに実績に基づく柔軟な安全規制が重視されるべき」と語る。この点で欧米に遅れを取る我が国の原子力安全対策に対して、「JCO 事故以後今後はこうした考えに基づく安全確保の方向に進むべき」と強調する。

国内では地元の厳しい反応の前に原子力が萎縮傾向にあるが、「21世紀を展望し、エネルギーセキュリティや環境問題を踏まえた前向きで建設的な対応が大事。苦しい状況は過去の経験を活かすチャンスでもある。責任と自信をもって進んでもらいたい」と関係者の奮起を促す。

IAEA の役割として安全確保が重要性を増す中で技術協力と安全面での連携の緊密化が求められる。このポストに自身が選ばれた背景には、「原子力発電所建設が唯一活発なアジアのいわば代表として」日本への期待が込められているのでは、と表情をひきしめる。その意味でも「是非日本から IAEA への積極的支援は今後もお願いしたい」と語る。

今年6月には IAEA が進めてきた廃棄物・使用済み燃料管理に関する国際条約が発効したが、法的担保の確認など手続き的な問題で日本は署名していない。「今や世界が "ドッグイヤー" で動いていく中で、従来型の時間をかけた対応ではいけない。ビジネスだけでなく行政でも俊敏な動きが必要」と、我が国も早期に加盟する必要性を説く。

これまでの国際機関での豊富な経験が語らせるのは次代を担う若者へのメッセージだ。「グローバル化が進展するのと並行して国や地域の利害が前面に出て競争・摩擦と協力のダイナミズムが生じる環境で日本の存在感が高まらなければならない。そのためにも若くて優れた日本人が多く活躍してほしい」。国内の原子力関係者に対しても、「国際機関の活動を客観的に眺めるのでなく、自己の問題として捉えて欲しい」との指摘は極めて明快だ。

当然 IAEA の事務局運営にも責任を持つ。「保障措置・技術協力・安全の各局間の風通しをよくしたい」と意欲を見せる。また、「世界的なネットワークの効率利用を図り、各地の原子力活動の透明性を高めるとともに相互に経験を学ぶことで原子力の一層のパフォーマンス向上と信頼感醸成につながれば」とも。

かつてのハプスブルク王朝の歴史に強い関心があると語るが、「十分に楽しむだけの時間はないのでは--」。歴史が深く刻まれた街でも絶えず世界の原子力安全に目を向ける多忙な日々となりそうだ。


Copyright (C) 2001 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.