[原子力産業新聞] 2001年11月22日 第2113号 <4面> |
[原研] 陽電子ビームで原子力構造分析物質表面を高精度分析日本原子力研究所はこのほど、物質表面の原子構造を高精度で分析できる新たな技術として陽電子ビームを利用した表面分析技術「反射高速陽電子回折法」を開発したことを明らかにした。 陽電子は、電子と同じ重さを持ち正反対のプラスの電気を帯びた粒子 (電子の反粒子) 。陽電子を結晶に当てると規則的に配列した原子で反射回折を起こすが、これを実測するにはその進行方向や速度をよくそろえることが必要であった。 原研では、放射性同位体から様々な速度で放出される陽電子の速度を調節して、速度が同じ陽電子のみを選別することにより、並行度の極めて高い陽電子ビームを得る技術を開発。このビームをシリコンウエハの表面観察に適用することにより、最表面の原子配列を反映した鮮明な反射回折パターンの実測に世界で初めて成功したという。 電子は電気的な引力により物質に引き寄せられるが、これとは反対に、陽電子は物質から反発される性質を持つため、入射した陽電子全部が表面のみで反射する "全反射現象" が起こる。全反射条件では、陽電子が物質の深い位置にある原子の影響を全く受けないことから、表面にある原子の "一層" だけを分析することが可能となる。今回開発された技術では、原理的に0.01ナノメートル (1ナノメートルは100万分の1ミリメートル) 程度の精度で分析ができ、最も表面に近い原子一層の結合状態や高速で振動する様子まで調べられる。また、これまで実測手段がなかった金属の表面と内部の微小な電位差の決定にも適用でき、新たな分析ツールとして大いに期待される。 原研では今後この技術を性能のよい半導体や光触媒の研究開発に応用していく計画であるとしている。 |