[原子力産業新聞] 2001年11月29日 第2114号 <4面>

[日立製作所] 陽子線がん治療装置、筑波大学で臨床試験

治験後、製造承認へ

日立製作所は27日、電力・電機グループが核融合装置や加速器等の開発、設計で培った技術を用いて開発を進めてきた「陽子線がん治療装置」を用いた治験(臨床試験) を、筑波大学陽子線研究利用センター (秋根康之・センター長) に依頼して実施する、と発表した。

今回の治験は、薬事法で定められた医療用具として、厚生労働省から同装置の製造および販売の認可を得るために、装置の安全性を評価することが目的。筑波大学附属病院に装置を設置しており、脳腫瘍または固形がんの患者6名を対象に実施する。日立では来年2月までに試験を終えて、販売にむけた厚生労働省への製造承認申請を行いたい意向。認可後はまず大規模医療機関等への販売を狙う考えだ。

今回の治験については、11月14日から16日に、筑波大学で開催された第35回 PTCOG (パーティクル・セラピー・コー・オペレーティブ・グループ) 会議で発表された。

陽子線を用いたがん治療は、深部の腫瘍部のみに照射を集中させるように陽子ビームを制御し、腫瘍を破壊させる新しい治療方法だ。患部への線量集中度が高いため、従来の電子線やX線の放射線治療より副作用が少ないという特徴があるほか、陽子線には与えられたエネルギーに応じて決まった深さで止まり、エネルギーを放出するという性質があり、エネルギー放出の位置を患部の深さに合わせ、周囲の正常細胞に大きな影響を与えることなく、がん細胞だけを治療することができる。このため、切除すると周りの重要な臓器の機能を大きく損なう可能性のあるがんや、深部がん等に非常に有効であり、外科的治療や薬の投与による治療に比べて、患者の負担が低減されるほか、現在の手法では困難な種類の病巣への適応も可能で、これまでの臨床でも大きな成果を上げている。

現在、医療用加速器は、建設中を含めて国内で8基、世界で30基程度あり、さらに今後、国内だけでも5施設以上の建設が検討されているという。

日立は、1950年代から加速器の開発に携わっており、高エネルギー加速器研究機構に納めた世界最大級の大型加速器「トリスタン」をはじめ、さまざまな加速器の主要装置を開発、納入した実績がある。最近では、福井県若狭湾エネルギー研究センター (福井県敦賀市) へ、陽子線がん治療や物理・化学、生物学、農学など幅広い先端分野での研究開発に利用される「多目的シンクロトロン・タンデム加速器」を納入している。

今回治療を開始する装置は、「回転ガントリー」を採用することで、身体の全周囲から陽子ビームを照射が行えるもので、患者の呼吸に伴って患部も移動することから、呼吸に同期して患部を常に正確に照射する機構も備えている。

筑波大学は、1980年に学内共同利用施設として粒子線医科学研究センターを設立し、以来、陽子線を利用した医学物理・生物学の基礎研究や、陽子線照射によるがん治療の臨床研究を行っている。これらの研究を通じて、陽子線治療の安全性と、特に深部がんの治療に対する有効性が明らかにされてきた。

日立では、今回の治験の成果を生かし、陽子線治療用装置の開発をさらに推進する方針。


Copyright (C) 2001 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.