[原子力産業新聞] 2001年12月13日 第2116号 <5面>

[東大原総センター] シンポジウムを開催、基盤研究への期待

東京大学の原子力研究総合センターシンポジウムが10、11日の両日、東京・文京区の東大・山上会館で開催された。「原子力基盤研究への期待」をテーマに、大学が原子力の基盤研究に果たす役割と課題などについて講演、パネル討論などが行われた。

初日、原子力研究総合センター長をつとめる近藤駿介東大教授があいさつし、大学における原子力教育、研究の両面の強化にむけ、研究への熱意や関心を呼び起こす知的興奮を指標にした研究課題のロードマップの作成や、研究者間のネットワークを推進していく必要性を述べた。

また「原子力エネルギーの基礎基盤研究−大学の役割」について講演した岡芳明東大教授は、革新技術を追求していくことの重要性を強調。「技術革新は他分野との境界領域で生まれる場合が多い」などとして、学問の横断性やフレッシュな人材による柔軟な思考といった特徴をもつ大学の果たす役割は大きいとの考えを示した。また岡教授は、近年、理学、工学の境目がなくなりつつある研究の状況のなかで、原子力分野もそうした境界領域にあって新たなフロンティアを切り拓く可能性を十分にもっていると述べた。さらに岡教授は、革新技術の開発にあたって、研究開発をとりまく厳しい状況のなかでも、独立した研究予算の確保が必要との考えを示した。

「核燃料サイクル工学研究における連携と横断的活動」をテーマに講演した田中知東大教授は、約15年にわたり、核燃料サイクル分野で成果をあげてきた組織横断的な研究開発の状況を紹介。田中教授は、再処理分野や廃棄物といった幅広い分野での研究開発の実績を示すとともに、組織横断的な研究開発のあり方が研究推進に弾力性を与え、施設や人材の面でも効率的な活用を可能とするなどメリットが大きいとした。また、大学のあり方として、基礎研究を通じ新たなアイデアを提示することや、エネルギー・環境問題の重要性を若者に伝える教育の場としての役割をあげた。

「加速器、放射線の高度利用の展望」について講演した石井慶造東北大教授は、考古学や家政学といった幅広い分野の研究にも貢献している最近の放射線利用の状況を示し、今後も利用普及の余地は大きいとした。また、簡易で優れた分析法として普及しているPIXE (粒子線励起X線) 分析の活用例をあげ、環境学習など放射線の知識普及にも役立てていることを紹介した。

このあと、「今後の原子力基盤研究のあり方」をテーマにパネル討論が開かれ原子力基盤研究における提案公募型研究推進制度の現状や効果的な推進にむけた課題、必要な研究設備とその整備などをめぐって議論が深められた。

また2日目には、「新しい放射線防護の論点」、「AMSが拓く地球科学のフロンティア」の2つのテーマで企画セッションが行われるなど、原子力基盤研究の今後の展開にむけた熱心な議論が行われた。


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