[原子力産業新聞] 2001年12月13日 第2116号 <5面>

[若狭湾エネ研究センター] 内外の動向めぐって国際フォーラム開く

治療効果や今後の課題

新たながん治療法として注目されている陽子線がん治療をテーマにした国際フォーラム「陽子線がん治療−がん治療、新たなアプローチ」が、さる11月10日、11日、福井県敦賀市にある財団法人若狭湾エネルギー研究センターの主催で開催された。約300名が参加した。

これまでも、陽子線治療に関する専門家の間で意見交換するシンポジウムはあったが、医療関係者のみならず地域一般住民に向けて陽子線がん治療を理解してもらおうとする今回のようなフォーラムは初めての試み。

主に地域一般住民を対象とした初日は、国内のがん治療第一人者から陽子線によるがん治療や、治療に用いられる加速器について分かり易く紹介・解説されるとともに、治療体験者へのインタビューが行われた。

また、主に医療関係者を対象とした2日目は、若狭湾エネルギー研究センターの臨床研究計画が紹介されるとともに、スイスをはじめとする国内外の医師、研究者によるパネル討論などが行われ、陽子線治療の普及の見通しや課題などを探った。

陽子線治療は、放射線治療の一種で、陽子線を病巣に照射し、がん細胞を退治するもの。副作用が少なく治療効果も高いとして、日本の4施設を含めて世界の21施設で実績を上げつつある。福井県の若狭湾地域はエネルギー関連技術が集積する地であり、福井県若狭湾エネルギー研究センターにはその技術・人材を活かして、日本海側初の陽子線によるがん治療もできる原子力の先端技術である加速器が設置されている。2002年度中に臨床試験も始まる予定で、今回のフォーラムは、地域一般住民や医療関係者に、先端医療としての陽子線がん治療について広く知ってもらい、理解を深めてもらうことを目的に開催された。

フォーラム初日の10日は、特に地域一般住民に陽子線がん治療を理解してもらうため、まず、森田皓造氏 (愛知県がんセンター名誉病院長) から、がん予防の心構えや早期発見の重要性について話があり、その上で外科療法 (手術)、化学療法 (抗がん剤)、放射線療法 (陽子線治療もこの一種)、免疫療法と数あるがんの治療法の中での陽子線治療の特徴や効果が紹介された。次いで、平尾泰男氏 (放射線医学総合研究所顧問) から、加速器を用いたがん治療発展の歴史、そして国内では4か所でしか始まっていない治療が研究という形ではあるが若狭湾地域でも始まろうとしていることが紹介された。そして、このような治療を受けた山下忠男氏 (横浜市在住、闘病体験をつづった「奇跡のトライ-鼻腔悪性黒色腫からの生還」を著作) へのインタビューでは、闘病経緯や放射線医学総合研究所での粒子線治療体験について患者としての生の声が披露され、「患者も自分の知識を広げ医師と二人三脚でチャレンジする気持ちが大切、また医師ももっと情報交換をして治療の選択肢を広げて欲しい」という言葉でインタビューを終えた。

2日目の11日は、主に医療関係者を対象に、陽子線がん治療の詳細、他の治療法との違い、今後の展望などについて理解してもらい、普及を図るため、T.ヨネモト氏 (米、ロマリンダ大学 助教授) から海外における陽子線がん治療の普及状況、山本和高氏 (若狭湾エネルギー研究センター粒子線治療研究室長) から若狭湾エネルギー研究センターの臨床研究計画が紹介された。

このほか、外科、内科、放射線科などの医師によるパネル討論では、G.ゴイテン女史 (スイス、ポールシェラー研究所) を交え、がん治療法の選択という観点から、外科療法、化学療法、放射線療法 (陽子線治療もこの一種) それぞれの特質について理解を深めた。また、治療技術を提供する加速器技術者、治療技術を利用して治療に当たる医師、そして両者を取り持つ医療物理学者によるパネル討論では、E.ペドローニ氏 (スイス、ポールシェラー研究所、医療物理学者) を交え、それぞれの分野間の相互理解を深めるとともに、陽子線がん治療の今後の課題、可能性を探った。


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