[原子力産業新聞] 2002年1月7日 第2118号 <11面> |
[紹介] 高レベル廃棄物処分−新たなアプローチ長寿命核種の分離・変換技術開発原子力開発利用の最重要課題のひとつである高レベル放射性廃棄物。技術の力で高い放射能や潜在的な放射性毒性を変換して無害化する核種の分離変換技術が新たな可能性の追求にむけて研究されている。すでに国の内外で専用の加速器を使う研究や高速増殖炉等原子炉を利用する研究が進められており、今後の展開に関係者の期待も高い。今号では高速増殖炉を利用する研究を進める核燃料サイクル開発機構の研究を中心にその取り組みを紹介する。 ▽高レベル廃棄物処分の合理化、超長期の不安解消めざす 使用済み燃料の再処理等に伴って発生する高レベル放射性廃棄物には、廃棄物の全体に占める量はわずかだが、アルファ線を放出し放射性毒性が高く寿命の長いマイナーアクチニド (MA=ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム等) やベータ線やガンマ線を放出する長寿命の核分裂生成物 (ヨウ素129、テクネチウム99)、発熱の大きい核分裂生成物 (ストロンチウム90、セシウム137) が含まれている。 こうした核種を含む高レベル放射性廃棄物は、安定した構造をもつガラスと混ぜて固化し、それを金属の容器に入れ、安定した地層の適地を選んで地層中の深いところに処分することがわが国の基本方針となっている。その際、長い期間放射能を出しつづけるような、やっかいなものだけ抜き出して無害化できれば、放射性廃棄物の処分量を減らし処分場の合理化が可能になる。さらに世代を超えて存在するような放射性廃棄物に対する不安を解消することができれば、放射性廃棄物処分を円滑に進めるうえでメリットが大きい。さらに、そうした廃棄物のなかには白金族系の有用な金属等も含まれているため、これらの有用金属だけを分離して工業利用にリサイクルすることも考えられる。 ▽内外で関連の研究開発が進む核種の変換分離についての技術的な可能性は以前からわかっており、国内外で基礎研究が進められてきていた。その方法には、専用の加速器で行うという考え方、高速増殖炉など原子炉を利用して燃料といっしょに燃やして変換する考え方の主に2つがある。1990年にはわが国の提案によって OECD/NEA のもとで、この核種分離変換技術に関する国際情報交換計画が開始され、またそれを契機として、この分野の研究に対する世界各国の関心が高まり、IAEA などの国際機関のもとにおいても国際協力が開始された。米国では金属燃料高速炉を、フランスでは酸化物燃料高速炉を対象とした研究が行われている。 核燃料サイクル開発機構の大洗工学センターでは、1999年からオールジャパンで研究陣が結集し高速増殖炉の実用化研究を進めるプロジェクトがスタートしており、既存の軽水炉と競合可能な高速増殖炉の候補を検討しているところ。分離・変換技術も環境負荷低減の観点でそのテーマのひとつになっている。ただ、この研究自体は分離プロセスから有用金属回収、核変換技術など幅広い技術分野を含むと同時に長期的なテーマとして着実に進める必要があるため、サイクル機構では昨年前半に分離変換技術の研究グループを発足させて、実用化研究のみならず独自に研究開発を進める体制を作った。
▽長寿命核種などの放射能や潜在的毒性の低減を100年程度で 同グループでは研究目標などの検討を進め、これまでに当面の目標から究極の目標まで3つの段階にわけて目標設定を行った。 当面は、核種の分離変換を高速増殖炉で行う燃料リサイクルシステムを実現し、現行の軽水炉のワンス・スルー方式 (生じた廃棄物を再処理せず直接処分する方式) で見込まれる放射能、潜在的な放射性毒性の100分の1程度までに低減する目標をたてた。ストロンチウムやセシウムを99%の効率で分離変換するとともに、超ウラン元素と呼ばれる長寿命核種を99.9%分離変換することをめざす。 またその次の中期的な目標としては、現行の軽水炉のワンス・スルー方式で見込まれる放射能あるいは潜在的な放射性毒性の1000分の1程度にまで低減できる燃料リサイクルシステムをめざすとしている。超ウラン元素の分離変換率を99.95%まであげ、ストロンチウム90やセシウム137などの核種を99.9程度の効率で分離変換することが目標で、モリブデンやルテニウムといった有用金属の分離回収も99%程度の高率で実現することをめざす方針だ。 そして究極的には、天然ウランのみを供給し、投入した燃料から生じる廃棄物の放射能や潜在的な放射性毒性を100年程度で供給した天然ウラン以下のレベルにまで低減した放射性廃棄物しか出さないシステムを実現するとしている。100年というのは人間の1世代を目安にしたもの。 なお、核種の分離に関する技術としては、全てのアクチニドを一括分離できる高効率かつ2次廃棄物の少ないシステムを検討中で、来年度からはロシアの研究所と共同研究等を開始し、サイクル機構が再処理技術開発等で培ってきた技術を主体に改良を進め、ソルトフリーの抽出プロセスの開発につなげる方針だ。 ▽高速増殖炉のメリットいかして一方、分離した長寿命核種等を変換するため有力な原子炉と考えられているのが高速増殖炉だ。高速増殖炉は、燃料を増殖しながら運転するのが持ち味で、高速中性子を発生させて炉心の周囲に配置したブランケットと呼ばれる新たに燃料を作るための物質を含んだ部材に照射して燃料を増殖する。同時に、この高速中性子は核種の変換にも使えるため、分離した長寿命核種などを燃料に混ぜるなどの工夫をすると、一定量の核種変換が可能になる。 高速増殖炉の炉心は多少の不純物を含んでも安全に運転できる柔軟性があることも、こうした分離、変換には好都合ということになる。また最近では、核不拡散の観点からプルトニウムなどの燃料になる物質を万一にも分離、転用されないように、常に他の物質と混ざった形で使うことが考えられており、その点でも都合がよいといえる。 ▽今後100年程度でマイナーアクチニドをゼロベースにサイクル機構の検討では、アメリシウムやネプツニウムという長寿命の核種 (マイナーアクチニド) を積極的に燃焼させようとした場合に、燃料のなかに最大で5%まで混ぜ込むことができるとの見通しをたてている。またその他原子炉の運転でできる核分裂生成物 (FP) についても、燃料中に最大で2%程度は混ぜることができるという。たとえばマイナーアクチニドを現行の軽水炉を稼働させて生じたものを含めて、今後高速増殖炉の実用化によって、同炉で一定量リサイクルしながら量を減らしていくことによって、今後100年程度でマイナーアクチニドの蓄積量をゼロベースに抑制できるという見通しもあるとしている。 サイクル機構ではこうした見通しを踏まえ、今後基礎試験や照射試験を積み重ね、変換する核種を混ぜた燃料の開発や、変換対象の核種で作ったターゲット集合体の開発等を進めて、核種の変換に関する技術的骨格を固めていく考えだ。 ▽照射試験など海外でも近く本格化分離、変換の対象となる核種には発熱を伴うものがあるため、それらを混ぜて炉で燃やすには、燃料製造プロセスにおいて発熱等への技術的な対応が今後の課題のひとつだという。またそうした燃料を高速増殖炉に入れた場合の炉心の特性変化も、現時点の評価どおり十分安全であるかどうか照射試験等によるデータの積み重ねと分析評価が欠かせない。分離プロセスについても同様に基礎データ等の積み重ねが今後重要となる。 こうした諸課題について、ひとつひとつ研究を重ねていく必要があるが、海外ではフランスのフェニックス炉 (高速炉) で、こうした核種の分離変換技術研究を含めた照射試験が来年度から相次いで開始される予定だ。サイクル機構でも実験炉「常陽」を使って分離変換技術に関する照射試験を開始する計画をもっており、今後2、3年で日仏両国を中心とした照射試験等、技術基盤を固めるためのデータ取得が本格化しそうだ。 |