[原子力産業新聞] 2002年1月7日 第2118号 <4面>

[年頭所感] 経済産業省資源エネルギー庁長官 河野博文

温暖化対策など適切なエネ政策を

平成14年の新春を迎えるに当たり、謹んでお喜び申し上げるとともに、資源エネルギー行政に関する所感の一端を述べ、新年のごあいさつとさせていただきます。

本年から30年前の1972年は、ローマクラブがその報告書「成長の限界」で天然資源の枯渇、環境の悪化を驚告し世界に衝撃を与えた年でありました。現在は、幸いにして当時警告されたほどの危機は生じてはおりませんが、依然として資源の供給確保、環境保全は人類の極めて重要な課題であり、資源エネルギー庁といたしましても、発足当時の初心に立ち返り、今年もこれらの課題に全力で取り組んでまいります。

我が国は、2度の石油危機の経験を経て、安定供給の確保に努めてまいりました。その結果、石油依存度の低下とともに、エネルギー全体に占める原子力、天然ガスの割合が大きく増加し、エネルギー供給源の多様化が着実に進んできております。しかし、我が国のエネルギーの需要は豊かさを求めるライフスタイルの進展等により、民生・運輸部門を中心にほぼ一貫して増加しています。さらに我が国のエネルギーの輸入依存度、原油の中東依存度は依然として高水準にあること、経済成長に伴いアジア諸国の中東への原油輸入依存度が高まる可能性があることもあわせて考えると、エネルギーの供給リスクには十分な留意が必要です。

エネルギーについては、従来からの安定供給の問題に加えて、環境保全、特に地球温暖化問題もまた新たに取り組むベき大きな課題となっております。97年の地球温暖化防止京都会議 (COP3) の合意を踏まえ、エネルギー起源の CO2 につきましては、2010年度における排出量を90年度と同レベルに抑えることが必要とされております。我が国の場合、排出する温室効果ガスの8割以上がエネルギー起源の CO2 であることから、昨年11月の COP7 マラケシュ会合における合意等を踏まえ、今後京都議定書削減目標の達成に向けて、エネルギー分野においても地球温暖化防止対策を一層強力に推進していく必要があります。

また、我が国産業の国際競争力強化の観点から、エネルギーコストの低減を図るべく、自由化、規制緩和等を通じた一層の効率の向上が求められています。

エネルギー政策の基本目標は安定供給、環境保全、効率化の3つの目標を同時達成することにあります。しかし、この3つの目標はしばしば矛盾し、同時達成を実現することは容易なことではありません。例えば地球温暖化問題への対策という面でみると、発電過程で CO2 を排出しない太陽光発電等の新エネルギーの拡大も重要ですが、現状ではコストが高く、効率化の要請との両立は容易ではありません。また、石炭は、化石燃料の中では安価でかつ安定供給という面でも優れていますが、CO2 がより多く排出されてしまいます。

このように、3つの基本目標を調和のとれた形で実現することは難しいことではありますが、昨年7月に取りまとめられました総合資源エネルギー調査会の答申内容を踏まえ、これらの取り組みを着実に実施していくことで、適切なエネルギー政策を実現させてまいります。

そのため、従来からの経団連環境自主行動計画の着実な実施、トップランナー機器の普及などの省エネルギー対策、原子力の推進や天然ガスの安定的な利用などに引き続き努めていくとともに更なる省エネルギー対策、新エネルギー対策、電力等の燃料転換等を中心とする対策を行っていく必要があります。

具体的には、以下のような施策を行ってまいります。

原子力政策については、1999年のウラン加工施設臨界事故等、原子力に対する国民の信頼を損なう問題が発生したことなどを背景に立地の長期化が懸念されています。しかし、原子力の利用は、電力の安定供給のみならず発電過程で CO2 を排出しないことから環境保全の要請にも資することにかんがみ、安全確保に万全を期すことを大前提として引き続き積極的に導入・促進してまいります。さらに、原子力政策の基本としている核燃料サイクルの確立に向け、昨年政府部内に「プルサーマル連絡協議会」を設置し、8月に中間的な取りまとめを行いましたが、今後とも広聴・広報活動の実施、発電所立地地域と電力消費地の相互理解の促進等を通じ、プルサーマルの早期実施に向け、国が前面に出た活動を積極的に展開してまいります。さらに、一昨年成立した「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」等に基づく原子力立地地域の振興施策の充実にも努めてまいります。


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