[原子力産業新聞] 2002年1月24日 第2121号 <2面>

[概要報告] 食品照射諮問グループ年次大会

日本原子力研究所高崎研究所
照射施設管理課長 須永博美
はじめに

2001年10月23日から3日間、ローマの国連・食糧農業機関 (FAO) 本部で開催された国際食品照射諮問グループ (ICGFI) 第18回年次大会に出席した。

ICGFI は世界保健機関 (WHO) 、FAO および国際原子力機関 (IAEA) が合同で設立し、食品照射に関する情報の提供、助言、世界的進展の評価等を行っている国際組織である。各国ごとの食品照射許可品目のリストや食品照射をめぐる動きについてはインターネットを通じこの ICGFI より発信されている (http://www.iaea.org/icgfi/) この組織へは現在46か国が加盟している。

現在、日本は加盟しておらず、日本原子力産業会議が特にオブザーバーとしての参加資格を有している。したがって、今回は原産会議としての出席である。

今回の大会には22か国の代表と、IAEA、WHO、FAO からなる事務局、その他の国際機関として Codex 委員会 (国連食品規格委員会)、EU、IIR (国際冷凍技術連合)、オブザーバーとして AIII (国際放射線照射協会)、原産会議等の組織から約50名が出席した。

会議の概要

大会では前回の大会以降これまでの ICGFI 事務局及び各参加国の活動状況報告、Codex 委員会の下部組織で審議中の「照射食品に関する Codex −一般規格改訂案」に対する ICGFI としての意見の具申、今年で期限切れとなる ICGFI の今後の進め方、そして決算、予算等、合計20議題について審議を行った。審議の中では特に、食品照射及び照射食品の輸入に慎重な態度で臨んでいる EU と、輪出を強く望む開発途上国との間で照射食品の検知法等をめぐり激しい議論が展開された。また今後についてはこのまま2年間延長することとし、その後のあり方を検討するワーキンググループを発足させた。

議論された主な内容

今回の ICGFI 年次大会で審議された中で特記すべき事項は次の通りである。

(1)前回 (2000年11月) 以降の ICGFI の活動 (事務局報告)

  1. 加盟国数 −前回以降は増減なく46か国

  2. インターネット上の食品照射に関する情報のアップデート化 −リビア、ブラジル、EU加盟国、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドにおいて許可品目が追加された。また、照射食品の許可国は、42か国であったものが52か国に急増した。これはEU加盟国が揃って許可国となったことによる。

  3. ワークショップ −EU において食品照射の特長や貿易に関するワークショップ開催を予定していたが、諸国からの同意が得られず実施できなかった。2000年12月にシドニー (オーストラリア) において食品の衛生化、植物防疫に関するワークショップを、そして同様のワークショップを2001年7月にリオデジャネイロ (ブラジル) で成功裏に開催した。

  4. Codex 委員会の照射食品の一般規格 (案) についての対応 − Codex 委員会の下部組織である CCFAC (コーデックス食品添加物・汚染物質部会) において、適切な線量で照射した食品は安全であり、毒性について話題になった放射線分解生成物 (2-DCB) について、安全性に問題がないということを提示した。

  5. 出版 − "Irradiation for Enhancement of Food Safety" を出版するための作業を開始した。

(2)各国からの状況報告

各国の状況として文書で提出された計31か国からのレポートが配布された。オブザーバーとしての原産会議からは口頭で、日本の状況として、2000年12月にスパイス業界が照射許可を申請したこと、その後約1年経過するが結論は得られていないことを報告した。

(3)Codex の「照射食品に関する一般規格」の改訂草案についての意見具申

1997年に FAO/IAEA/WHO 合同高線量食品照射研究グループが、10kGy の上限線量を撤廃すべきとする結論を出したのに端を発し、Codex 委員会で改訂作業を開始することを承認している上記一般規格について、その改訂草案に関する議論を行った。改訂作業は、現在 Codex 委員会の下部組織である CCFAC で議論を進めている段階にあり、ここには ICGFI の意見が反映される。

本件では、上限線量に関するもののほか、照射食品の検知法とそれに基づいた表示に関し大議論となった。検知法としてはすべての食品に共通な方法が確立されているわけではないが、5種類の方法が国際的に適用する方法としてEUなどで認められている。そして、その検知法による分析と照射食品であるという表示を義務づけることが一般規格で規定されているが、これを修正するかどうかの議論である。これを規格に入れて厳格に実施すべきとする EU と、検知するための技術、装置を持ち合わせていないため、緩やかな内容とすることを求める生産国 (主に途上国) との間で、どのような合理的妥協点が見出せるかが課題となっている。EU とそれ以外との溝は埋まらず、激しい議論が展開された。なお、EU はどうしても輸入しなくてはならない食品については特定の機関に許可を与えて生産や処理を行わせており、一般貿易上に乗せなくても特に支障にならないというのが実情のようである。

その他 Codex 一般規格改訂草案に関し次のような項目が議論され、これらをまとめて文書とすることも試みたが、最終結論を出すまでにはいたらなかった。そのため、後日、各国の代表者より事務局に対し国としての見解を提出することとなった。

(1) 草案では食品照射に用いるアイソトープとしてコバルト60のみを掲げているが、セシウム137も含めるべきであるという意見 (2) 吸収線量に関し草案中では、全体の平均が10kGy を超えない範囲ということが残されているが、これについては ICGFI として高線量照射も問題ないという従来の主張に基づきこの記述は削除すべきであること (3) 再照射の切合の合計線量についても10kGy を超えないこととなっているが、これについても上記と同じ理由で削除すべきであること−。

(4)今後の ICGFI について

ICGFI は何回かの延長によりこれまで続いているが、このままでは2002年で期限が切れる。これについて、ICGFI 活動の継続の必要性、次の組織を作るための準備、または ICGFI を廃止するとすれば、この場合には段階的に行うべきである、等の理由で、さらに延長は必要であるとして、2年間延長をすることになった。そして、延長された2年後に ICGFI はいかにあるべきかを議論するための10名程から成る検討グループを設置することになった。このグループはマレーシア代表がとりまとめ役となり、今年1月に第1回の会合を開くことになった。

参加しての印象

(1) EU はすべての加盟国で同一歩調を取る方針となっているため、全体の了解を得る困難もあり、食品照射に対しては厳しい態度で臨んでいるようだった。アジアに位置する日本は熱帯果実や香辛料の多くの生産国 (主に途上国) と地理的、政治的にも近い関係にあり、食品照射に関し、これらの国にどのように対応すべきか、今後の課題となるのではないかという感じがした。

(2) 食品照射は食品をめぐる病原菌処理、植物検疫、貿易等との関連で日本として世界の中で議論に加わらなければならない状況になってきていると感じられる。その意味で、1日も早く ICGFI へ加盟し、しかるべき機関から国の代表として出席し発言すべきではないか。

(3) これまで、どの品目についても許可していなかったオーストラリアとニュージランド (ともに ICGFI 加盟国) において、かねてから許可申請されていた香辛料の照射が昨年の9月30日付で許可されたという新しい情報が得られたことは有意義だった。


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