[原子力産業新聞] 2002年2月28日 第2126号 <3面>

[国連開発計画] チェルノブイリ事故報告書

国連開発計画(UNDP)とと国連児童教育基金(UNICEF)は1月25日、チェルノブイリ事故の影響に関する報告書を公表し、被災住民や地元コミュニティに対する今後の支援として「放射線影響の問題だけに絞らず、個々の被災者の生活を中・長期的に平常化していけるよう、健康や生態系、社会経済に関する方策を統合した、全体的なアプローチを取っていく必要がある」と訴えた。

「チェルノブイリ事故による人的な影響−回復への戦略」と題されたこの報告書は、両機関か国連の人道問題調整局および世界保健機関(WHO)の支援を得てまとめたもの。まず、事故後から現在まで15年間の「緊急段階」では被災コミュニティを貧窮と依存から脱却させるために膨大な投資を必要とした事実を踏まえ、今後10年間は「復興段階」、この目標の達成を目指すそれ以降の期間を「長期的な管理段階」と位置づけている。放射線影響については2000年6月に国連の放射線影響に関する科学技術委員会(UNSCEAR)が発表した報告書に概ね沿った内容になっており、「事故後に予想されていた白血病の急増については信頼に足る確証が得られなかった一方、放射性ヨウ素被曝を原因とした若年層の甲状腺がん患者数は2000人近くに及んだ」と指摘。控えめに見積もってもこの数字は8000から1万人に増えるとしたほか、かなりの数の被災者が潜在的に深刻な合併症にかかる可能性があり、他のがんの患者数も今後増加していくとの見方を示している。

心理的な影響に関して同報告書は、「事故そのものや事故による脅威は元より、復帰への影響が係わっている」と指摘。これまで頻繁に行われてきた情報キャンペーンは、トップダウン方式の一方通行的な他の活動とは切り離されていたため、しばしば混乱と無知を招く結果になっていた。こうした現状から同報告書は、最も確かな証拠や事故による放射線被曝と関係する実際のリスクに基づいた明確なアドバイスを被災者全体に与えるべきだと勧告。政治的、制度的に未熟なこれまでの期間には、高額でまとまりのない復興・補償戦略が実施されてきたが、これからは人材や財政面でもっと低コストな別の方法で同じ結果が得られるのではないかとの考えを提示している。

今後の新たなアプローチとして同報告書は、思いやりと効率性を併せ持つ枠組みの中で社会全体やコミュニティ、さらには被災者個人個人の必要に応じた、長期的に持続性のある支援が求められると勧告。具体的には「国際チェルノブイリ基金(ICF)」の創設を提唱しており、原子力産業界など放射線の健康影響に関する研究結果に関心を抱く団体から寄付を募り、同事故による健康および生態系への影響研究に資金を投入するべきだとしている。

また、支援の焦点は最も被害の大きかった被災者やコミ二二ティ、特に農村部などで自給自足生活をしている低所得家庭に当てるべきだと強調しており、汚染された環境で安全に生活できるような革新的な方策を開発しなくてはならないと指摘した。そして、ICFの下には国際チェルノブイり研究委員会(ICRB)という専門家組織を設置し、健康や生態系分野の優先研究について定期的にICFに勧告させるべきだとの見解を示している。

同報告書はさらに、胸部がんや成人の甲状腺がん、および清掃にあたった労働者の健康について放射線との関連性を調査すること、事故当時若年だった世代の健康状態についても特別に注意していかねばならないと警告しており、ヨウ素欠乏症の排除を優先事項とするよう勧告。国際社会が長期戦略を実施するために開発や資金援助の可能性を探るべきだとしている。

また、汚染した居住区からの避難民の間では元の家に戻りたいとの希望が高まっているため、それが例えリスクを伴うものであっても出来る限り避難民自身の選択が許されるよう配慮すべきだとの考えを示した。


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