[原子力産業新聞] 2002年1月24日 第2121号 <面>

[原産] 昨年度産業実態調査報告から

日本原子力産業会議は1月末に、2000年度の「原子力産業実態調査報告」を取りまとめ、発表した。それによると、電気事業の支出がはじめて2兆円を超えたことが明らかになり、うち運転維持費が前年度に比べ15%増加を示したほか試験研究開発費も5年ぶりに増加を示す結果があらわれた。一方、鉱工業分野では重要な指標となる受注残高が前年度に比べて4%減少するなど、厳しい状況に変化は見られず、原子力関係売上高は前年度より2%少ない1兆6385億円だった。調査は同年度に原子力関係の売上や支出、従事者を有するなど何らかの実績があった企業、電気事業11社、鉱工業341社、商社28社へのアンケートに基づいて行われた。今号で、調査結果の概要を紹介する。

2000年度の電気事業の原子力関係総支出高は前年度に比べて1340億円、率にして7%増の2兆97億円となり、2年連続の増加となり、1958年の集計開始からはじめて2兆円の大台に達した。

費目別では、全支出のほぼ半分を占める運転維持費(2000年度の構成比51%)が前年度から増加したほか、前年度に5年ぶりの増加となった建設費(同21%)は、今年度も対前年度微増で、引き続き堅調を維持した。一方、95年度から増加傾向にあった核燃料費(同23%)は5年ぶりに対前年度比減少となった。また、95年度から減少傾向にあった試験研究開発費(同3%)は、今年度は一転して41%の大幅増加となった。

運転中の発電プラントの増加に伴い、これまで着実な伸びを続けてきた運転維持費は、2000年度は対前年度比15%、金額にして1385億円増の1兆503億円となり、はじめて1兆円を超えた。全支出に占める割合も51%となった。その推移を項目別にみると、発電プラント基数の増加に伴い、運転や保守点検要員が増え、人件費はなだらかに増加。94年度まで増加が著しかった修繕費は、プラント基数の増加にも関わらず近年はほぼ横ばいで推移していて、電力会社の保守経費削減への努力が伺える。

一方、放射性廃棄物等処理・処分費や原子力発電施設解体費、使用済み燃料再処理引当金などが含まれている「その他経費」は、96年度以降増加傾向を見せている。特に2000年度は対前年度比35%、金額にして1271億円の大幅な増加を示したが、これは同年度から原子力発電環境整備機構(原環機構)への拠出金に充当する特定放射性廃棄物処分費が新たに発生した(2000年度は1312億円が支払われた)ことや、原子力発電施設解体引当金の省令改正に伴い、原子力発電施設解体費が増加したことによるものと考えられる。

[運転維持費の運転コストヘの影響]

原子力発電所の運転に係わる経費である核燃料費と運転維持費を発電電力量当りでみると、2000年度は、核燃料費が1.42円/キロワット時、運転維持費が3.27円/キロワット時となり、核燃料費が前年度より下降した一方で、運転維持費が上昇した。また、設備容量でみると、核燃料費が10148円/キロワット、運転維持費が33531円/キロワットで、同じく運転維持費が前年度より上昇した。

通転コストはここ10年間、年度ごとのバラツキはあるものの、発電電力量当りでも設備容量当りでも、高い設備利用率や運転保守技術の向上などによる抑制効果に支えられて減少傾向を示してきた。しかし2000年度は特定放射性廃棄物処分費が新たに運転維持置に加わるなど、運転維持費が大きく増加したことが運転コスト上昇につながった。特定放射性廃棄物処分費1032億円が2000年度の運転コストに与えた影響は、1キロワット時当り0.32円である。

昨年度5年ぶりの増加となった建設費については、今回調査で対前年度微増の4274億円となり、4000億円台を維持した。また、電気事業の試験研究開発費としては506億円が投入された結果、95年からの減少傾向に歯止めがかかったことが明らかになった。

[鉱工業の売上動向]

1999年度の前回調査で、鉱工業の原子力関係売上高は対前年度比12%増の1兆6792億円を記録したが、2000年度は2%減の1兆6385億円となった。また、鉱工業の中間取引き的な売上を除いた、エンドユーザーである電気事業や政府など最終需要者への売上高(最終需要相当額)は1兆4458億円となり、前年度の1兆5374億円より6%減少した。

納入先別内訳では、昨年度に引き続き電気事業と鉱工業向けが伸びたものの、それ以外は大きく落ち込むなどしている。部門別内訳では、燃料サイクル部門と建設・土木部門が伸びた一方、原子炉機材部門や発変電機器部門は減少。特に、今まで着実な伸びを見せていたRI・放射線機器/サービス部門の売上高は半減した。

最大の納入先である電気事業の支出見込みや原子力発電開発計画をみると、新規プラントの建設が計画通り進んだとしても、今後は過去のような右肩上がりの発注増は見込めないため、鉱工業の売上が増加基調となるかは不透明である。

また、鉱工業の売上高を部門別にみると、99年度は全ての部門で前年度より増加したが、2000年度は建設・土木部門が対前年度比36%増、燃料サイクル部門が同22%増となった一方、原子炉機材部門とRI・放射線機器/サービス部門、発変電機器部門はそれぞれ9%、52%、18%の減少となるなど、部門によるばらつきがでた。

特に、燃料サイクル部門は、短期的には増減を繰り返しながらも、概ね増加傾向で推移していて、青森県六ヶ所村における核燃料再処理施設の工事進捗率が2000年度末現在64%に達するなど、2005年の完成に向けてピークを迎えていることによるものと考えられる。同じく増加傾向で推移していたRI・放射線機器/サービス部門は、2000年度は一転、大幅な減少となった。

[鉱工業の受注残高]

鉱工業の売上高を予測する上で重要な指標となる受注残高(各年度末現在)は、2000年度は合計2兆2636億円で、前年度より4%の減少となった。この金額は、同年度売上高の約1.38年分であり、前年度とほぼ同様の厳しい水準にある。鉱工業の受注残高は、90年度には3兆7643億円に達していたが、90年代前半で大きく減少し、93年度に3兆円を切り、95年度以降は2兆5000億円を下回る水準で推移している。

部門別でみると、前年度より増加したのは燃料サイクル部門、建設土木部門、その他製造部門で、特に建設・土木部門は対前年度比34%増の4934億円で、96年度以降5年連続の増加を記録し、この10年間で最大となった。燃料サイクル部門は、90年代を通して高水準で推移してきたが、99年度に対前年度比37%の大幅な減少となっており、本年度は7%の増加となったものの、往時の勢いはない。これは、製品の主要な納入先である六ヶ所村で建設中の燃料再処理施設が、完成に近づいていることが理由と考えられる。

これらに対して、原子炉機材部門、発変電機器部門、RI・放射線機器/サービス部門は減少となった。最も金額の大きい原子炉機材部門は、3年ぶりの減少となったが、依然受注残高全体の47%を占めている。一方、90年代後半に大きく受注残高を伸ばしてきたRI・放射線機器/サービス部門は、一転して83%の大幅な減少となった。


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