[原子力産業新聞] 2002年3月21日 第2129号 <1面>

[原子力損害賠償制度検討会] 損害賠償国際条約締結へ動き

アジア地域での国際損害賠償枠組みの構築に向け、我が国がいわゆるウィーン条約改正議定書等を締結する場合の課題などを検討してきた原子力損害賠償制度検討会(座長・谷川久成践大学名誉教授)はこのほど、条約締結をめぐっては現行の国内制度との関連で根本的問題は見られないとする報告書をまとめた。調査を委託した原子力委員会は19日の会合で、同検討会から報告書の説明を受け、今後早い時期に政府関係者からなるタスクフォースを設置し、さらに法的側面から詳細に検討を図りたいとの考えを示した。

原子力損害賠償制度は事故の被害者の救済措置を確立するとともに事業書への集中責任を明確にすることで健全な原子力事業の発展をねらいとする考え方に基づく。アジア地域では今後も原子力開発の進展が予想される一方、同地域には越境損害被害者の救済措置として国際条約の枠組みは構築されていないのが現状で、各国国内制度の確立とあわせ地域に損害賠償制度を根づかせる必要性が指摘されている。

現在、原子力損害の賠償を定めた国際的な法的枠組みには、経済協力開発機構(0ECD)加盟国を中心に1968年に発効したパリ条約と、同条約に比べ要件が緩やかで国際原子力機関(IAEA)のもとで77年に発効した、より広範な国々が加盟するウィーン条約がある。86年のチェルノブイリ事故がきっかけとなり、両条約が連携して被害者救済措置の地理的拡大を図る議定書の作成や、ウィーン条約の改正議定書の採択、補完的補償に関する条約作りなど国際的な賠償制度の強化が図られきた。

我が国では国内を対象とした損害賠償制度が確立しており、地理的な問題や国内法との関連などからこれまで国際条約には加盟して来なかった。近隣アジアでもフィリピンだけがウィーン条約に加盟しているのが現状だ。ところが、今後も中国や韓国などで原子力発電開発が進展する見通しに加え、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による北朝鮮での軽水炉建設事業推進の観点からも、アジア地域での損害賠償の枠組み確立を促進するために我が国が率先して国際条約に加盟する必要性が議論されていた。昨年には韓国がウィーン条約への加盟に向け国内法を改正したことも我が国での加盟への議論を後押しした形だ。

こうしたことを背景に、同検討会は昨年以来議論を重ねてきた結果を報告書にまとめた。報告書によると、現在国内で適用される原子力損害賠償法との関連で、(1)免責事項から「異常に巨大な天災地異」に関する事項を削除する(2)少額賠償措置を廃止し賠償措置額を3億SDR(約487億円相当)に設定する(3)我が国で原子力事故が発生した場合、管轄権のある裁判所をひとつに特定する規定の整備(4)我が国が事故発生国になった場合の補完基金の引出しなどに関する規定整備−などの点で法令整備が不可欠だと指摘しながらも、国内制度上「条約締結を不可能にする根本的な問題はない」ことを確認。我が国として、ウィーン条約改正議定書または補完的補償条約の締結に向け、今後も具体的措置に関する検討が重要だと結論づけている。


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