[原子力産業新聞] 2002年4月18日 第2133号 <5面> |
[概要報告] むつ小川原地域放射光施設設計調査報告から日本原子力産業会議「むつ小川原地域における放射光施設肇備検討委員会 (平尾泰男委員長)」は青森県から委託を受け、2001年度に同放射光施設の基本設計に関する調査を実施した。計画されている施設は、東北・北海道地域での放射光研究開発や交流の拠点を目指すもの。このほど出された委員会報告書では、施設の仕様を「周長約120メートル、エネルギー2GeV、エミッタンス約50nm・rad」とするとともに、当面の研究分野を (1) タンパク質結晶構造解析 (2) 医学・獣医学 (3) 理工学 −の3つとして共同利用に供することが望ましいなどとする検討結果がまとめられている。これを受け、同県としては今年度中にも建設着手の段階までこぎつけたい考えだ。今号で調査結果の概要を紹介する。 【調査について】本施設の目指す主な目標は、「東北・北海道地域を中心とした、施設の設置地域とその周辺地域における研究機能の強化およびその地域の産業育成や教育ならびに文化面への貢献」である。目標に向けた機能・役割を達成できるように、以下の考え方で基本設計を進めた。
(1) 既存の技術の延長線上で、できるだけ最先端の性能を発揮でまるようにする。 「放射光」は赤外線からX線まで、あらゆるエネルギーの光を含んだ白色光源であり、適切な分光手段を用いれば任意のエネルギーを持つ光を供給することもできる。従って、エネルギー範囲だけからみれば、紫外線やX線など従来型光源が用いられてきた分野すべてをカバーすることができる光源であると言える。もちろん、コストが高い放射光を安易に用いるべきではないが、同時に多数の光源が得られることを考え合わせれば、十分採算がとれる場合もあり得る。 最も望ましい利用は、従来型光源では得がたい様々な放射光の特徴、偏光性、波長可変性、高指向性、高輝度、パルス性などを活かした利用である。従来手法の踏襲から始まった利用も、30年にわたる放射光利用研究の進捗の結果、新たな手法をも生み出すに至って、他では得られない貴重な成果が得られている。一方、利用分野を考えるうえでは地域性も重要な要素と言える。 本施設を地域との密接な連携を持つ研究・教育拠点、および異分野の触れ合う交流拠点とすることができれば、地域に根ざした新たな萌芽形成も十分に期待できる。 本施設は、東北・北海道地域における研究開発機能の強化などを目的として設置されるものであり、この地域の特性を生かし、(1) タンパク質結晶構造解析 (2) 医学・獣医学利用ならびに (3) 理工学応用 −の3分野における研究利用を中心に、検討を進めてきた。 【基本設計】1.本体装置 (1) 設計の基本的な考え方 放射光の利用では、大きく分けて「高輝度ビーム志向」と「高エネルギーX線志向」がある。高エネルギーX線を利用するためには、電子エネルギーを上げる必要がある。しかし、電子エネルギーを上げれば、一般に高輝度X線を得ることかむずかしくなる。両志向を満たす装置は SPring-8 に代表される周長の長い大型の装置となり、むつ小川原地域における放射光施設の計画のように中規模の装置では両者を同時に満たすことはむずかしい。放射光源装置 (本体装置) の設計では、制約された装置規模の範囲内で、できる限り高輝度化を進めると共に、将来の研究の発展に対応するようできるだけ高エネルギーX線を利用できる方向で検討した。 また、設計・建設期間が短いことおよび建設後の維持管理のしやすさを考慮し、できる限り既存技術を活用し、開発を必要とする新規技術や開発要素の多い技術は極力省くことを設計の指針の1つとした。さらに、中型ながら運転や利用のしやすさといったソフト面に力を入れることも設計の視野に入れた。 本施設は、上記の観点に立ちできる限り先端に近い研究開発に利用できるものとすることを目指した。その一環として、可能な限り高エネルギーのX線を利用できることを検討条件とした。一方、装置全体の小型化を考えて、加速蓄積リング (SRリング) の最大エネルギーに対して、SRリングに入射するビームのエネルギーを低い値とする、いわゆる低エネルギー入射の方式を選択した。 ビームライン (BL) は全部で18本取れる設計とした。その内の少なくとも4本は挿入光源の BL を想定している。特に、高磁場のウィグラの設置は高エネルギーX線を利用する上では不可欠であり、本装置では超伝導ウィグラの設置を想定した設計を行った。ただし、全ての挿入光源を超伝導のウィグラとするのではなく、利用に応じて低磁場多極ウィグラ、アンジュレータを含めた複合系となると考えられる。具体的にどの様な挿入光源を設置すべきか、今後の検討課題である。 (2) 主な設計パラメータ 本体装置は、周長約120メートルで概ね八角形のSRリングと、SRリングに電子を供給するための入射器からなる。SRリングでは電子の最大エネルギ、を2GeVとし、蓄積電流は300mAに設定した。SRリングヘの入射エネルギーを、装置規模をさほど大きくすることなくできる限り上げるために、入射器の主加速器をブースターシンクロトロンとし、その最大加速エネルギーを1GeVとした。ブースタシンクロトロンの前段加速には50MeVの電子線形加速器 (リニアック) を採用した。 2.ビームライン (1) ビームラインの定義 SRリングから発生した放射光を用いて利用実験を行うには、まず、リングと実験装置を接続しなければならない。この接続部分がビームライン (BL) である。基本的に BL は、実験に必要とされる光のみを、効率よく実験装置に導く光導入路でなければならない。また、超高真空装置である光源リングの真空度に、決して影響を与えることがない真空装置であることも必要となってくる。さらには、SRリングの規模に大きく依存しているが、実験者の安全を考えた放射線防護機能を併せ持つものであることが重要である。 一方、利用実験で必要な光は、企画された実験毎に大きく異なる。また、同様に実験装置の真空度も様々である (超高真空環境は制約が多い極限状態であり、必要が生じない限りは通常用いられることは少ない)。すなわち、通常の放射光は赤外線から硬X線までの光を含む白色光であり、ここから任意のエネルギー範囲を持つ光を切り出し利用することが出来る。従って放射光は、これまで様々なエネルギー範囲の励起光源を用いてきた実験室規模の実験の、ほとんどすべてに対応できる光源であるからである。 1つの BL がこのような多種多様な要求を同時に満たすのは困難である。従って、それぞれの実験に対応するため BL には特有の様々な工夫が不可欠であり、それぞれの実験に最適化された BL が必要となる。即ち、実験装置毎に異なった BL が必要と言っても過言ではない。この場合、BL と実験装置はいわば一体化して考えることができることから、実験装置を含めた BL を広義の BL と呼んでも差し支えない。 (2) 設置ビームラインの検討 現在、各地の放射光施設では、実に多種多様な研究分野の利用実験が実施されている。これは放射光源が白色光源であり、赤外線から硬X線までの光を用いるほとんどの研究が利用可能であることによる。しかし、現実問題として光源資源、建設資金・労力などは有限であり、すべての研究分野に対応できるわけではない。そこで本年度はワーキンググループ (WG) のもとで、本施設に設置すべき BL について検討を行ってきた。WG では本施設の主たる設置目的、生物系研究への利用を念頭に置き、研究分野の重要性、利用ユーザー数、地域との提携、実現可能性の有無などを考慮し検討を加えていった。その結果に基づき、本施設に当面設置すべき BL として次の5本の BL を検討した。
(1) タンパク質結晶構造解析ビームライン これら BL のうち、(1)、(2) および (3) (理工学応用ビームラインの中で、空間的制約が少なく、光モニターライン設置が容易であり実現性が高いため) の3本を当面設置することとし、その他については、次のステップで早急に設置を考えるものとした。 【施設の利用】 施設の利用の考え方 放射光施設は、それ自身は研究・開発に供される1つの道具であって、各ユーザーの優れた研究成果によってはじめてその意義および真価が認められる。したがって、施設が有効に機能するかどうかは、いかに多くのユーザーが効率よく利用し、目的とする成果を上げるかにかかっており、ユーザーニーズに合った施設の運営、ビームライン (BL) および実験設備・機器の整備、技術支援、宿泊設備などのインフラの整備が肝要となる。 ユーザーについて本施設では、タクパク質結晶構造解析、医学・獣医学利用および理工学応用の3分野で利用する3本のBLで運用を開始する。利用者の増加ならびに研究分野の拡大に伴って、順次追加する。当初予定されている利用者は、本計画に参画している環境科学技術研究所、弘前大学、北里大学、北海道大学ならびに青森県グリーンバイオセンターをはじめとるす公設試験研究機関が考えられる。 施設の利用に際しては、研究課題の公募が原則となる。公募にあたっては、主な利用者である東北・北海道の研究機関のほか、国内はもちろん国外から応募に対応できるよう配慮することが必要である。 【建設計画】今後、建屋および施設の詳細設計から建設工事に入る。それと並行して、さらに詳細なユーザーニーズの調査を行った上で、3本のビームラインの詳細設計を行い、製作・設置する。計画作成にあたっての基本的な考えは下記の通り。
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