[原子力産業新聞] 2002年4月25日 第2134号 <4面> |
[原産年次大会] セッション1 (午後の部) 「21世紀のエネルギー政策と原子力」年次大会初日のセッション1は午後に入って、秋元勇巳三菱マテリアル会長が議長をつとめ「21世紀のエネルギー政策と原子力」をテーマに日本、英国、フランス、ロシア、また欧州原子力産業会議 (FORATOM) からそれぞれ原子力開発の今後の方向性と課題について講演が行われた。各講演者からは、課題はありながらも、環境への負荷や十分なエネルギー供給確保の面から将来の持続的発展に原子力が不可欠との発言が相次いだ。 「原子力立地に枠組み必要」 N.アスキュー氏 (英国) 政府の予測によると、今後英国では天然ガスが40%伸ひる一方、石炭は縮小する傾向にある。今後2020年までに天然ガスが主体となり、石炭は縮小、原子力も新規立地がないことやマグノックス炉の廃炉なども見込まれることから縮小することが予想され、CO2 排出の増加などの影響が懸念されている。 電力の供給予備力に関しても、2020年までの見通しは厳しく、持続不可能とみられる。価格面では、2020年までの間、市場の規制緩和による効果を見込んで、MWh あたり15ポンドの発電単価を設定しているが、新規に立地した場合、天然ガス、石炭による発電ともに MWh あたり20ポンド以上の発電単価となり、原子力についても MWh あたり22ポンドと見込まれている。 このままではどの電源も新規の立地は不可能ということになる。その結果、電力の供給予備力か縮小し、料金の上昇を招くことから、その時点で新規立地の余地か生じることになるともいえる。 原子力オプションの可能性だか、規制緩和市場では民間投資家は政治の影響を受ける。新規建設が行われるには、政治情勢が大きく左右するため、政治的に原子力発電が支持される情勢となる必要がある。 新規建設にあたっての手続きについても、計画の承認/立地許可を妥当かつ予測可能な時間枠内で取得できる枠組みを定めることが必要だ。また、他の発電オプションに比べて公平な取り扱いを原子力発電に与える枠組みが必要だ。 さらに放射性廃棄物の処理に対する明確な政策および戦略を策定することが欠かせない。技術的解決策はすでにあるが、それを成し遂げるためには政治的な解決策が必要だ。 BNFL では燃料サイクル分野での幅広い事業を行っており、原子力のみが CO2 を排出しない安定的な代替電源と確信している。課題も多いが、着実にその解決にむけて努力していく。原子力は地球上の生物多様性を守り、地球の "青" を守ることができるものだから。 「原子力に正当な評価を」 P.ハウク氏 (FORATOM)原子力は政治的な問題になっている。自由市場のルールが必ずしも適用できないからだ。新規建設は反対にあう。一般市民の認識は必ずしもそうではないが、政治家の判断はにぶりがちな傾向だ。ビジネスの側面からは原子力はエネルギー自給率の向上や環境面でのクリーンさなどの面で魅力的な選択肢だといえる。カリフォルニア州での電力危機から米国も原子力見直しを始めており、フィンランドでも原子力発電所の新規建設への動きをみせている状況もある。 昨年ドイツのボンで開かれた COP6 再開会合ではイデオロギーの圧力があり原子力は差別的な扱いだった。しかしだからといって原子力の CO2 排出削減効果に変わりはない。今後もその役割は少なくとも20年から30年、あるいはそれ以上続くものであり、やがて京都議定書の柔軟性措置に原子力の役割が位置付けられることになると確信している。 最近、英国では BNFL が原子力発電所の新規立地再開を政府に呼びかけており、スぺインでも新規立地への動きがみられている。 また脱原発を掲げる政権でも、すぐに脱原子力に踏み切ることはできていない。ドイツでは即時中止が無理と判断し、長期的なプロセスで脱原子力を進めることで電力との合意をみている。こうした段階的プロセスは新政権の誕生で中止される可能性があるが、この合意が今後変わらないとしても、20年間は原子力発電所が稼働しつづけることを意味している。スウェーデンでも予定していた2基目の原子力発電所閉鎖問題が難航している。 脱原発を進めるこうした国々に共通して言えるのは、緑の党などの協力が必要な連立政権の国でこうした動きが起こっているということで、有権者の一部が支持する党のイデオロギーが政権の政策に持ち込まれている状況がみられる。 欧州が今後、経済的にも環境的にも許容されうる形で電力需要をまかなうためには、原子力エネルギーを除外することはできない。 EU 各国はエネルギー供給の50%を域外に依存しており、時給率を高める必要があり、原子力はそのひと筋の道を示している。つまり EU 各国は原子力の発電シェア35%からさらに増やすことが必要となる。 原子力発電所の新設の実現は容易でないが、経済的な要請が十分に高まってくれば、今後の20年の間に欧州のいくつかの国で原子力発電所の新設という場面がみられるだろう。それには原子力が政治上、イデオロギー上の理由で埒外に置かれないことが前提となる。 発電所を新設する理由はシンプルだ。それが経済上必要であることがその主な理由となる。原子力オプションを維持するための関連技術のノウハウやインフラを支える基礎ともなる。しかし政治情勢の変化はそれをままならないものにしている。 今後に望むことはひとつだ。それは、有権者や政治家が恐れでなく事実に基づき行動し、エネルギー問題に対する真に合理的な取り組みに対しては一般からの正しい支持が得られるということだ。 「ロシア原子力開発計画」 L.ボルショフ氏 (ロシア)ロシアでは、今後2010年までに新たに5基の原子力発電所が運転を開始する計画で、設備べースの伸びは140%を、2020年にはさらに現時点の240%を目標としている。かなり野心的な開発計画だ。また既存の第1世代炉、第2世代炉開発の寿命延長も進める計画で、第1世代炉の寿命は現状の30年から40年を、また第2世代は50年に延長することにしている。第1世代炉は12基、第2世代炉は6基がそれぞれ寿命延長の対象となっている。 こうした開発計画により、原子力は2020年までに発電シェアを現在の15%から倍の30%に増強する一方で石炭、また天然ガスヘの依存も下げることをめざしている。天然ガスヘの依存度を下げるのは世界のトレンドとは対照的といえる。 今後の原子力開発計画にとっての課題は、設備老朽化や資金面の問題などがあり、原子力産業の発展によってこれらの重要課題を解決していく必要がある。資金面については売電、使用済み燃料管理ビジネスによる収入や公憤の起債 (政府保証つき) 等が蓄えられるが、天然ガスを輸出し、得た収入を一部原子力開発基金に繰り入れる等の議論も政府部内にはある。 プーチン大統領はミレニアムサミットの場で2段階の原子力開発計画を示した。第1段階では、現在も進めつつある既存の原子炉および燃料サイクル技術のさらなる改良を推し進める。また第2段階では、21世紀後半に見こまれる世界の電力需要を満たすだけの革新的な原子力技術研究と導入することを考えており、第2段階では高速増殖炉 (FBR) を中心としたクローズドサイクルのシステムの実現を志向している。BN600 での実績をはじめ、鉛冷却の FBR 等に実績を有しており、サイクル技術の面でも使用済み燃料の乾式再処理技術研究については世界のトップレベルにある。こうした技術をべースに、国際協力にも積極的に取り組むことにしている。映画「ライオンキング」の言葉を借りれば、「我々は全てひとつ」。原子力産業もひとつになり安全性等の問題に共同して取り組んでいくことで未来は拓かれるだろう。 「環境論者として支持」 B.コンビ氏 (フランス)今日、多くの環境団体が原子力の安全性等の面で反対の立場から活動をしている。しかし、しっかりと科学、環境面での事実を踏まえると、新たな見方が提示できる。地球上で平和で、地球環境にも適した生活のスタイルを実現し持続するためには、原子力エネルギーが環境面からも重要な役割をになっているということだ。また原子力は先進国のエネルギーに対するニーズに応えるとともに、中南米やアフリカ諸国などの開発途上国が化石燃料を使用する可能性をひろげることができる。 飛躍的に増えるエネルギー消費、人口問題など地球環境への影響は深刻な問題だ。1997年の統計では、原子力発電は全体のエネルギー生産の7%、後は石油、石炭などの化石燃料に由来している。10ギガトンもの CO2 が排出されて地球環境に影響を与えている。 環境論者である私が原子力を支持することになったのは、石油採掘に携わる父とともにアフリカ、米国、カナダなどに暮らし、そのありのままの自然にふれたこと。また、その後海軍に入ってからペルシャ湾で原油タンカーの監視をするなどエネルギーの最前線での経験に由来する。父は私に石油の重要さを説くと同時に、それがいずれ枯渇するものだと話した。 原子力のメリットは第一に大気汚染の面で化石燃料に比べてはるかに少ないことにある。また廃棄物の発生量も化石燃料に比べて重量換算で100万分の1と少なく、それだけ地球への負担も少ない。廃棄物の放射能も時間を経るごとに減衰する。さらに再処理も可能で、貴重な資源としての有効活用が可能な特長がある。 一方、原子力施設の事故やテロといったリスクはゼロではない。だが原子力は多重の防護といった安全性に関する考え方が開発当初から基本にあった。確かにチェルノブイリ事故は不幸な事故だった。しかし今後の環境問題等を考えると、原子力をあきらめるわけにいかない。 5年前に発足した原子力支持環境保護主義者協会は国内外で講演会や国際会議に参加し、率直に自分たちの考えを述べている。テレビやラジオなどのメディアを通じての発言も数多く行ってきている。 「変化への始まり期待」 南直哉 電事連会長産業革命以降の飛躍的な生産力の増大は、石炭に始まる化石燃料の大量使用により実現された。近代工業文明は人々に多大な便益をもたらしたが、同時にエネルギー消費と CO2 排出量の急速な増大を招来した。 エネルギー消費といっても国や地域に大きな格差があり、途上国の一人当りのエネルギー消費量は先進国のおおむね10分の1にすぎない。世界の人口は現在の60億人から途上国中心に増大し、21世紀半ばには90億人を超えると予想されている。このような途上国の人口増大と経済発展への渇望は、エネルギー需要を必然的に増大させる。とりわけ先進国では大量消費、大量廃棄による使い捨ての経済社会から、省エネルギーを志向した循環型社会への転換を目指すべきだ。 一方、エネルギー供給においては、今日までの発展を支えてきた化石燃料、すなわち炭素サイクルから生み出されるエネルギーへの依存を減らす必要がある。 エネルギー消費と供給の両面で新たなパラダイムヘの転換が求められている。 こうした地球の制約要件を満たしつつ、世界の発展に必要なエネルギーを供給できるのは、見通しうる将来において原子力しかない。 午前のセッションでは、米国や英国で原子力復活に新たな息吹があること、また各国の原子力への着実な取り組みを確認し心強く感じた。 わが国でも原子力の着実な開発を進めており、先般公表した2002年度の計画では日本全体に発電電力量に占める原子力の割合を、現在の34%から10年後に41%へ増大することにしている。また2005年の運転開始をめざして青森県で再処理施設の建設を進めている。 しかしながら原子力に対する批判も大変強いものがある。チェルノブイリ事故を始めとする安全性への不安の高まりのなかで欧米を中心に停滞ないし後退が続いた。COP の議論でもその役割は十分に評価されていない。 原子力に携わるものとして、原子力の固有のリスクや課題の解決に全力で取り組んでいくことは当然だ。特に高レベル廃棄物処分に道筋をつけることは原子力がシステムとして完結するうえできわめて重要な課題だ。その上でこうしたリスクや課題もあわせ、地球の資源、環境問題とその中での原子力の果たしうる役割について広く議論を巻き起こしていくことが必要ではないか。 いかに持続可能な発展を実現するか。原子力をノーというなら他にいかなる手段かありうるのか。国民世論や国際世論を巻き込んで真正面から議論し、徹底的かつ虚心に考え、回答を求めていく時だと考える。 米英の状況にみられる新しい息吹が少なくとも原子力の正当な評価に人々の目をむけ、大きな変化の流れの始まりになることを期待する。 この流れを加速し、より幅広く、より確かなものとなるよう力を合わせようではないか。 「共同歩調とり努力を」 秋元議長サマリーこのセッションを通じ、環境問題等への対応に原子力が必須の選択であることが一般社会に認識され始めていることや、各国がそうした状況をベースに原子力の復権にむけてインフラ整備を進めようとしていることが目に見え始めてきていることを確認できたと思う。21世紀の新たな社会に不可欠であることが認識されれば社会との共生によってポテンシャルを高めていくことができる。原子力はそのポテンシャルの高さから社会の反作用も強く、政治的な情勢などもありアレルギー反応が大きくなった面がある。しかし原子力の本当の姿が認識されつつあり、原子力を受容するあけぼのが間近いことを感じられたことはよかった。日本も世界と共同歩調をとってインフラを整えるために努力していかねばならない。 |