[原子力産業新聞] 2002年5月9日 第2135号 <5面> |
[年次大会セッション5] 原子力技術の将来展望−新型原子炉を中心に最終セッションとなったセッション5では、「原子力技術の将来展望−新型原子炉を中心に」との議題で、海外から三氏、国内から二氏が講演。毎日新聞の横山裕道論説委員を座長に大会初日のセッション1の内容を総括しつつ、既存原子炉の優先案や新型炉開発の目標や計画、高速増殖炉の実用化戦略研究なども含め、世界の原子炉開発がどの方向へ進んでいくのかという点について様々な見解が示された。 D・ニコルズ南アPBMR社長 競争力高いPBMR 昨年9月に米国で発生した同時多発テロに関連してまず述べておきたいのは、PBMRでは内部に2メートルのコンクりート、建屋にも1メートルの外壁が装備されるので仮に何かが突っ込んできたとしても大丈夫ということだ。開発計画の狙いは実証モジュールを商業規模で海外輸出することにあるが、南ア国内でも国営電力のESKOMが係わってきた背景に次のような事情があった。すなわち、85年から90年までで過剰だった発電設備が2010年には電力需要を下回ると予測される点。2025年には廃止措置を考えなければならないが需要の87%は石炭火力が賄っている。南アで稼働する唯一の原子炉は廃止コストも含めて1セント/キロワット時(98年実績)と競争力があり、世界各国の電力価格と比較しても最も安いことがわかっている。 CCGTが3セント/キロワット時であることからPBMRの開発目標はCCGTとも競合できるようキロワットあたり1000ドルの建設費とし分散型に。工期は24か月で緊急時計画区域は400メートル以内、原子炉寿命は40年に設定した。基本戦略を「小型でシンプルなシステム」とした理由は、工期が短縮できるほかエンジニアリングも1チームが複数の炉に係われるので安く済む点。市場への影響も最小であり、3〜4か月に1回というサイクルの機器製造で学習効果が期待できるほか、運転およびメンテナンス作業もミニマムになる。また、冷却材に頼らない静的なシステムで安全確保が可能で、事故シナリオでも2〜3日という短時間に制御棒を挿入する必要がない。 さらに、国際的な電源オプションを比較した場合、PBMRは、燃料費、O&M費のどの面でもべースロードでは他電源より有利。共通化マシンを複数まとめて発注してもらうと一層のコスト削減が可能だ。 エクセロン社は開発計画からの撤退を決めたが、米国の産業界は競争力のある物を重視するので、目標値を達成できれば米国でも十分販売の可能性があると信じている。 全豊一 IAEA原子力発電部長 INPRO計画に期待大 IAEAの長期予想では今後50年で世界のエネルギーの需要は途上国を中心とする新規の需要を含めて2倍、電力需要は3倍になると見積もられている。原子力は現在、世界で約16%の電力を賄っているが、将来のために安全性や経済性、廃棄物処分や核不拡散などの課題に対応できる革新的なアプローチが必要だ。こうした背景からIAEA総会は2000年9月、「IAEAの後援のもとで関心を持つ加盟国すべてが、特に革新的な核不拡散原子炉技術を検証考察することで核燃料サイクル問題の検討に努力を結集するよう」呼びかける決議を採択した。これに対応して計画立案されたのが「国際革新型炉・燃料サイクル計画(INPRO)」で、昨年5月には決議・審査組織となる運営委員会が初会合を開催。同年12月の国連総会ではINPROへの支援が承認されている。 今年の3月現在でIAEA加盟国およびECの13カ国がINPROに参加し、16名の専門家達が無給で同計画向けの活動を実施中だ。INPROの目的は2段階構成になっており、原子力技術を持続可能な方法で安全かつ経済的に、核拡散を防止する形で利用し、今後50年のエネ需要を満たす支援のため、第1段階ではさまざまな構想や方法を比較する方法論と基準の選択および策定に重点を置いている。このような1-A段階の作業は今年末に完了予定で、その後2002年末まで1-B段階では加盟国の革新的技術を基準と要件に照らして検討することになる。 2003年以降の第U段階では、まず第I段階の結果をまとめるために「革新的原子力技術の国際会議」を開催する計画で、今年の5月27、28日にも準備会合を開くことになっている。第U段階の目標としては、利用可能な技術に関して国際プロジェクトを立ち上げる実行可能性を検証するとともに、実際に参加国で適正に実施できる技術を特定していくことになる。 INPROは今後、国家や国際機関を問わず、さらなる協力を要請する考えで、第四世代原子炉国際フォーラム(GIF)にも協力を呼びかけていきたい。日本は正式なメンバーではないが、専門家は参加Lてくれている。韓国も公式に参加したのは今年になってからだが、予算外資金や無償の専門家を出してくれればどの国でもメンバーになれるので協力してほしい。 G・マーカス米DOE原子力科学技術局副局長 順調な第4世代炉開発 米国ブッシュ政権の国家エネルギー政策開発(NEPD)グループは昨年5月、原子力を主要要素と位置づける将来のエネ政策を公表。既存炉の出力増強と認可更新だけでなく新規原子炉の認可も支援していくと表明したほか、次世代技術と先進的な核燃料サイクルを開発し、最新式の再処理および燃料処分技術でも再考する方針を内外に示している。この背景にはエネルギー需要の増大と国内原子炉による性能面、コスト面での堅実な運転実績、温室効果ガスヘの対策があった。 これまでに開発されてきた原子炉を大別すると、フェルミ炉やマグノックス炉など初期の原型炉や実験炉は第1世代、現在の主力である軽水炉やCANDU炉、ロシア製軽水炉(VVER)などは第2世代に分類される。第3世代としては新型PWRやBWR、システム80+、AP600、欧州加圧水型炉(EPR)などがその範疇に入り、これらの経済性、安全性をさらに向上させるとともに廃棄物を最小化し、核拡散抵抗性も高い革新的な原子炉を「第4世代」と名付けた。既存技術を使ったPBMRや改良型であるAP1000などは第3世代プラスといえる。 GIFの第1回会合が開催されたのは2000年1月のことで、現在は原子力を開発利用中の10カ国が参加。100を超える設計概念、燃料サイクル・アイデアの中から安全性や経済性、持続可能性も視野に入れて100名以上の専門家(うち半数は米国人)が基準設定作業を続けており、今年の10月には2030年時点のロードマップ(開発計画)を完成させることになっている。このマップで特定された概念について二国間あるいは多国間での共同研究に繋がっていけばと期待している。 今後の見通しについては楽観的で、近い将来、第3世代もしくは第3世代プラスの炉が稼働できるかもしれないと考えている。問題があるとすれば、若い人材が不足している点。DOEとしては大学に奨学金を出したり、燃料の提供により閉鎖された実験炉を再開させる計画を検討中だ。 饗場洋一・三菱重工特別顧問 革新炉、大型化軸に 資源量の乏しいエネルギー多消費国である日本で原子力が必要なのは言うまでもないが、世界レベルでも電力需要増に対処していくため原子力の利用は有効だ。ただし今後は、より一層の安全性と経済性の向上に向けた技術開発とともに、地球環境負荷の低減と長期的エネ供給保証の確保に向けたりサイクル技術の開発が必要と考える。 「安全性と経済性の両立」を果たすための革新型軽水炉として三菱ではAPWR+を、日立/東芝ではABWRIIを電力会社と協力して進めている。APWR+開発ではAPWR技術を基礎に2010年代後半以降の主力電源とすることを目指しており、容量を175万キロワットに拡大、設備利用率95%以上、24か月運転を可能にするほか、受動的安全設備の利用拡大により設備を単純化、最終除熱手段や非常用電源を多様化するのが目標。一方、ABWRIIでは電力出力を170万キロワットとし、18か月の長期運転サイクルと96%の設備利用率実現、燃料サイクル費の低減により発電単価を25%低減、制御棒や制御棒駆動機構の削減により建設費も20%低減する計画だ。 メーカー各社はまた、これらの大容量化原子炉とは逆に、建設単価や発電単価の低減やウラン資源の有効活用、電力需要に応じた柔軟な建設投資が可能になるような革新的な中小型炉の開発も進めている。プラント構成の簡素化により大型炉に匹敵する経済性を追求した「小型一体化炉」としては三菱のIMR、日立のSSBWR、東芝のLSBWRがあるほか、熱効率の向上と機器の簡素化で発電原価低減を図る「超臨界圧水冷却炉では日立と東芝のSCPRが、また、ウラン資源の有効利用と高レベル廃棄物の低減が可能な「低減速炉」としては日立/東芝のRBWRのほかに三菱のRPWRが開発中となっている。 IMRとSCPRは経産省の公募型プロジェクトで、前者の開発には京都大学と電力中央研究所、日本原子力発電が加わっているほか、後者では東大、九大、北大のチームが開発を進めている。 相澤清人・サイクル機構理事 有望概念絞りこみへ 高速増殖炉サイクルシステムの実用化は持続的かつ恒久的なエネ供給保証確保の観点または地球環境保全を重視した社会の維持発展から長期的に取り組まなければならない重要課題だ。 環境破壊や資源の枯渇、リスクが増加しない上、安心感を持って長期的にエネの供給が可能なシステムが21世紀の社会的要請として存在するという背景から、サイクル機構では99年から電気事業者および電中研、原研など国内外の関係機関と連携してFBRサイクルシステム実用化戦略調査研究を開始した。具体的な目的は(1)革新技術の導入(2)設計研究や要素技術の基礎試験実施(3)研究開発計画の整備(4)複数の実用化候補概念の絞り込み−などで、チェック&レビューしつつ競争力のあるFBRサイクルの技術体系整備に向け、社会の変化に応じて柔軟に作成済みの開発計画を精査していく。 フェーズIでは安全性の確保を大前提に、軽水炉によるサイクルや他電源と比肩する経済性が達成でき、環境負荷低減性、資源の有効利用性、核拡散抵抗性に優れたFBRサイクルのプラント概念を目標に、幅広い技術的な選択肢について比較検討を実施。有望なFBRおよび燃料サイクルの概念が抽出され、そのいくつかについては経済性の見通しもついてきている。 また、基幹電源として相応しい大型・中型炉の概念に加えて分散型電源や多目的利用に相応しい小型炉の基本特性やそれらに適合する燃料サイクルプロセスの組合せが明確になっている。 2001年から始まったフェーズUでは、革新的技術の一層の開発導入を重視。炉型ごとにポイントは異なるが、大・中型のナトリウム冷却炉については経済性の向上とNaの水反応対策、漏洩対策など弱点克服に向けた概念の追求、主要技術の小規模ホット試験、乾式ニ方式の要素試験での定量的な比較を。燃料製造についてはMOX燃料の高性能化や新型燃料絞り込みなどの試験が行われる。 さらに、放射性廃棄物の処理処分までを含めたシステム全体を統合した上で整合性や適合性を確保して実用化候補を少数に絞り込む考えだ。環境負荷低減に効果のあるTRU燃焼とLLEP核変換技術の実用化についてはコストや社会ニーズの兼ね合いを評価しつつ長期的観点から徐々に実用化していきたい。 |