[原子力産業新聞] 2002年5月16日 第2136号 <4面>

[原研] フッ素樹脂膜を開発

日本原子力研究所はこのほど、通常の燃料電池膜に比べ3倍のイオン交換容量を持ち、今後幅広い利用が期待される固体高分子型燃料電池の高性能化にも役立つフッ素樹脂膜を開発したと発表した。

原研では、水中で導電性をもつ高分子電解質膜の研究を行い、放射線化学反応を利用してポリエチレン膜の機能性を高めたボタン電池用隔膜などを即発してきている。これまでの研究開発で蓄積した技術を活用し、フッ素高分子膜の内部に他の高分子を導入するグラフト重合を行った。加えて、スルホン化というプロセスによりこのフッ素高分子に導電性を持たせて、従来の導電性フッ素樹脂膜に比べ、膜中のイオンの流れやすさを示すイオン交換容量が3倍程度のフッ素樹脂電解質膜の開発に成功したもの。

新たに開発された電解質膜は、市販されている膜に比べアルコール類などの吸収で体積が膨張することが少なく安定していることから、燃料としても有望なメタノールを直接利用する固体高分子型燃料電池にも利用が可能であるという。燃料中の水素と空気中の酸素が化学反応することで電気を発生させる燃料電池の中でも、固体高分子型燃料電池は出力密度が高いうえ、小型・軽量化が可能だ。燃料電池に用いられる膜は、本来の電解質膜としての役割とともに、水素と空気が混じり合わないようにする隔膜として重要な役割を担うため、高いイオン交換容量とともに燃料に対する安定性に優れた膜の開発が課題となっていたが、今回原研が開発した導電性フッ素高分子膜はこうした2つの点ですぐれた性能をもつ。

原研では今後、実際の燃料電池に組み込んで性能を確認するほか高温時での膜の長寿命化に向けた技術開発を進めるとしている。


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