[原子力産業新聞] 2002年6月13日 第2140号 <4面> |
[レポート] 第4世代炉開発国際フォーラム 最近の動向5月21日、22日の2日間、パリで「第4世代国際フォーラム(GIF)」の政策ならびに専門家両グループの合同会議が開催され、第4世代原子炉システム(2030年ごろに実用化されるべき後述するような特性をもつ)の候補について議論がなされた。 その結果、第4世代として国際共同研究開発が模索されうるコンセプトおよびコンセプトグループとして6個、短期導入(INTD・International Near Term Deployment)の分類として、4個からなるリストが作成された。ただし、これらはまだ正式にGIFとして承認したわけではなく、INTD枠に新たな提案とそれに基づく技術的な検討を行い、新たなINTDコンセプトを加えて第4世代候補とあわせて、次回7月初旬ブラジルのリオデジャネイロで開催予定のGIF合同会議で議論・承認することとなっている。したがって、ここで、「第4世代コンセプトとしてこれこれが決まりました」というのは尚早なのだが、今までの議論を振り返って多少コメントをつけることをお許しいただきたい。なお、筆者は後述するように、第4世代の議論が2000年1月に始まって以来、特に経済産業省と原子力委員会の意向を受け、続けて関与してきているが、公式には政府を代表しているわけではないことにご注意いただきたい。 【6つの第4世代コンセプト】 第4世代コンセプト6つのうち、実に3つ、半数が高速炉であることが特徴として挙げられる。まず、@「ナトリウム冷却高速炉」であるが、酸化物燃料、金属燃料を含みまた再処理技術としても湿式、乾式の両方を含むとして、主として課題はサイクル技術であるとしている。A「鉛ビスマス冷却高速炉」とB「ガス冷却高速炉」もリストにあるが、どちらかというと基礎的かつ長期的なテーマという位置付けである。岡芳明東京大学教授主導のC「超臨界圧水炉」も選ばれている。これも当面熱中性子バージョンだが、長期的には高速炉バージョンも視野に入れてということになっているので、これを含むと3分の2が高速炉関係ということになる。超臨界圧炉は高い発電効率と、貫流型のリアクターによる大幅な簡素化が大きな売りである。さらに、高温ガス炉の発展形というべきD「超高温ガス炉」で、工学的には難しいところも多いとは思うが、高温水蒸気電解による高効率の水素生産もねらいのひとつである。最後に非古典炉の代表としてE「溶融塩炉」が登場した。 こうして見ると、水炉系がひとつ、ガス炉が2つ、液体金属冷却が2つ、非古典炉から1つということになる。高速炉は必ずしもリサイクルを前提としない場合もありうるが、しかし、基本的には余剰中性子を利用する核燃料の生産とリサイクルが本筋となっている。クリントン政権からブッシュ政権への交代に伴う米国における原子力政策の変化の兆しが感じ取られる次第である。 【短期導入コンセプトは4つ】 一方、第4世代と呼ぶには革新性に乏しいが、しかし、実現性が高く場合によっては2015年ごろまでには実用化しうるようなもので、経済性などにおいて目覚しい利点のありそうなコンセプトを上述のINTDとしたわけだが、今回の議論の対象からは@「次世代CANDU炉」、A「ペブル高温ガス炉」(要確認)、B「プリズマティック高温ガス炉」ならびにC「小型一体型PWR」がリストに上げられている。 現時点で第4世代リストには、我が国の多種多様な研究で扱われているものは大体取り上げられていているのだが、低減速水炉や簡素化BWRグループは、その経済性が基準である改良型軽水炉(ALWR)より劣る−というなんとも奇妙な理由によって評価が低くなっており、合同会議では低減速水炉はいわば継続密議、再提案による再検討ということになっている。 【コンセプト提案への評価作業】 今回の評価は計百弱のコンセプト提案に対して、技術評価ワーキンググループ(WG)が第4世代の目標に対して技術的な検討を加え、評価し、さらに必要な研究開発項目とおおよその開発費を評価し、それらに基づいて技術評価WGの共同議長が集まって議論して選択してきたものがべ-スになっている。共同議長は4技術評価WGから2人ずつ計8人、うち米国人以外はカナダがひとり(水炉WG)、フランス人ひとり(ガス炉WG)、日本人ひとり(液体金属炉)である。もともとこのロードマップ策定作業は米エネルギー省(DOE)が予算化してあり、GIFを通じて参加各国と国際機関に協力を要請して実施したもので、全体で百名ぐらいの参加で、うち約半数が国際機関を含む非米国からの参加であった。 評価法も特別の評価法グループを作って検討してきており(筆者もメンバーに入っていた)、「持続可能性」、「安全性と信頼性」、「経済性」の大きな目標群とその下の8個の目標を評価指標にブレークダウンして、それに対して改良型軽水炉を基準とするスケールを作成した。それまでに各WGが提案コンセプトを9のコンセプトグルーブにまとめなおしていて、この評価法を用いて、点数をつけたわけである。共同座長会議などにおいても厳密な意味での点数による評価を行ったわけではないようで、各WG内での議論と同様の熾烈な論争とバトルがあったと聞いている。それに対して、今回のGIF合同会議では技術的な議論は深くはできずに、どちらかというと各国の意図に基づく主張や、詳細議論については同席していた専門家やWG議長に意見を求めるという形で議論が進んだ。 【10月に東京でGIF会議】 前述のように今回の議論を受け、INTDの応募受付が始まり、次回のリオ会議では、第4世代ならびに関連するINTD候補のリストが正式に承認されると同時に、第4世代に対する研究開発計画や、本年9月までに完成予定のロードマップ報告書ドラフトの審議が計画されている。またこれらのリストや研究開発計画に基づく今後の進め方の議論がなされる予定で、これを踏まえて、10月下旬に東京で開催の会議が予定されている。 この東京会議はロードマップ策定後の第1回GIF会議となり、GIF事務局(今まではDOEが買って出ていた)の体制も含め、運営組織が再検討される予定である。言い換えれば、GIF第2ラウンド、実質的な国際研究開発協力、が順調に船出できるかどうかの見極めということになる。もっとも当面は、各国の手持ちの計画を照合して組み合わせを捜すということになると思われるが、大体言い出しっぺの米国がいったいいかなるテーマを提示するのかが興味あるところである。 我が国においては、経済産業省(エネルギー総合工学研究所に委託〕による革新的実用原子力技術開発提案公募事業が平成2年度より始まり(本年度分は6月4日公募開始)、今年で3年目を迎え、文部科学省でもほぼ同様のスキームでより基盤的な研究開発を狙った事業が本年より開始の予定であるが、その中で、米国の原子力研究所イニシアティブ(NERI)プログラムの国際版であるI−NERIが企画されている。今までの2国間協定に基づく研究協力に加えて、これらの国際研究開発計画が新たなフェーズを迎えるときがきた。 原子力委員会では革新炉検討会を始めているし、また日本原子力産業会議やエネルギー総合工学研究所においても次世代システムのあるべき姿などの議論を積み重ねているところであるが、鬱積する原子力界の閉塞感を吹き飛ばす新たな方向性、指導性によってこれらの国際協力プロジェクトを真の国民利益のために実施していくことになることを願うものである。 我が国においては、経済産業省(エネルギー総合工学研究所に委託〕による革新的実用原子力技術開発提案公募事業が平成2年度より始まり(本年度分は6月4日公募開始)、今年で3年目を迎え、文部科学省でもほぼ同様のスキームでより基盤的な研究開発を狙った事業が本年より開始の予定であるが、その中で、米国の原子力研究所イニシアティブ(NERI)プログラムの国際版であるI−NERIが企画されている。今までの2国間協定に基づく研究協力に加えて、これらの国際研究開発計画が新たなフェーズを迎えるときがきた。 エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部部長 松井 一秋 |