[原子力産業新聞] 00年6月13日 第140号 <5面>

[物質材料研・原研] 超伝導薄膜の作製に成功

独立行政法人物質・材料研究機構(岸輝雄理事長)材料研究所の阿部英樹研究員と日本原子力研究所(村上健1理事長)関西研究所の志井賢資研究員はこのほど、簡単な電気めっき法で超伝導材のMgB(ニホウ化マグネシウム)薄膜を作製することに成功した。

今回成功した電気めっき法によるMgB薄膜作製技術は、従来のMgB薄膜作製技術に対して、@装置の簡単さ、原料の安価さ、さらにプロセスの単純さにより、大面積のMgB薄膜作製を低コストで行うことができるA真空蒸着法などの従来法では実行困難な、任意形状の基板表面への均一なMgB薄膜作製が可能となる−といった、2つの際立った特徴を備えている。

また今回の技術における最大の特徴は、任意形状の導電体表面へのMgB薄膜作製を行うことができるという点。従来の真空蒸蕃法では、蒸着源から発生する気体状の試料を基板表面に吹き付けることにより薄膜状試料を作製するため、筒状基板の内側の面など、陰になった部分への薄膜作製は極めて困難であった。

一方、電気めっき法では、イオン電流が障害物をまわりこんで流れていくことができるので、適当な陽極をデザインすることにより、陰極の形状にはかかわりなく、均一な厚みの薄膜を作製することが可能。例えば、袋状になった基板の内面にMgBめっきを施すことにより、空洞共振器を作成することも可能であると考えられる。実際、筒状陰極内部に細いグラファイト陽極を同軸状に挿入し、陰極内面に均一な電流を供給することにより、均一な厚みのMgB薄膜を作製することに成功している。

今回成功したMgB薄膜作製法は、日本が「お家芸」のひとつとしている電気めっき法を利用していることから、大掛かりな設備投資を必要としない、任意形状の導電体表面への薄膜作製を大規模に行うことができる電気めっき法の特徴と、合金超伝導体中最高の超伝導転移温度を持つ超伝導MgBの特徴とをあわせることにより、例えば、グラファイトファイバーへのMgBめっきによる超伝導布の作製など、まったく新規な製品を産みだすことが可能と考えられるなど、わが国の産業界に新たな分野を創出することができるものと期待されている。


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