[原子力産業新聞] 2002年7月18日 第2145号 <4面> |
[原研] 次世代排ガス触媒として期待日本原子力研究所 (村上健一理事長) は10日、ダイハツエ業 (山田隆哉代表取締役) と新しく開発したペロブスカイト型酸化物触媒が自動車の排ガス中で自己再生機能を有することを、大型放射光施設SPring-8の放射光エックス線を利用した原子レベルでの解析により初めて明らかにしたと発表した。 自動車の排ガスには、大気を汚染する一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等が含まれており、これらを規制値以下に清浄化して大気に放出するために触媒が用いられている。現在利用されているほとんどの自動車触媒は、アルミナ等の表面にパラジウム、白金、ロジウムなどの貴金属を微粒子状態で分散保持させることにより、できるだけ大きな表面積を保ったまま長時間触媒機能を維持するように工夫されている。しかし、800度C以上の高温、酸化還元雰囲気変動など過酷な環境にさらされ、貴金属微粒子がアルミナ等の表面を移動、合体することにより粒成長を起こし、触媒機能の低下が避けられなかった。 今回、ナノテクノロジーを駆使した新しい触媒設計と調製方法により、ペロブスカイト型酸化物にパラジウムを複合させた触媒を合成した。今日のガソリンエンジンでは、空気と燃料の比率が一定の幅で電子制御されており、排ガスが酸化還元変動を繰り返している。この時のパラジウム原子の挙動をSPring-8の放射光エックス線を用いた結晶構造解析で明らかにした。 この触媒は、高温における酸化雰囲気でパラジウム原子がペロブスカイト型酸化物に固溶する。ところが還元雰囲気でパラジウム原子はペロブスカイト型酸化物から析出して微粒子となり、再び酸化雰囲気になると完全にペロブスカイト型酸化物に固溶することが分かった。このことは、排ガスの酸化還元変動に応じて結晶構造を変えることによって貴金属微粒子の粒成長が抑制されることを意味する。このようにして、新しく開発した触媒が優れた浄化活性を維持できること、つまり触媒の自己再生機能を原子レベルで発見・解明した。 この成果は、これからの触媒開発に対して自己再生機能という新しい設計概念を与えたものであり、次世代の自動車排ガス浄化触媒として実用化にも期待できるという。 |