[原子力産業新聞] 2002年8月1日 第2147号 <4面>

[原子力安全委員会] 概要調査地区選定で考慮すべき環境要件

一面所報の通り、原子力安全委員会は特定放射性廃棄物処分安全調査会がまとめた「高レベル放射性廃棄物処分の概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件について」の報告をまとめ、パブリックコメントに付した。今号で同報告のなかから、「4.概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件」を中心に紹介する。

はじめに(一部抜粋)

概要調査地区選定段階で考慮すべき環境要件とは、処分地となり得る可能性を第一段階で、広く調査する際に考慮すべき地質的環境要件であって、将来の処分地としての適性や妥当性を決定するためのものではない。本選定段階では、概要調査をするまでもなく、文献調査により明らかに処分地とし不適切であると考えられる要件を示すことが適切である。処分地としての適性や妥当性は、上記の選定プロセスに則して段階的かつ慎重に判断されるべきであり、その判断に際して必要な要件は、今後とも、原子力安全委員会において継続的に検討する予定である。

4.概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件

(1)隆起・沈降・侵食

処分の安全確保に関する処分場及びその周辺の地質環境への主な影響としては、

・隆起・侵食の進行に伴って処分施設及び廃棄体が地表近くに接近すること

・隆起・沈降・侵食により地下水の流動特性や水質が変化し、その結果として、廃棄体中に含まれる放射性物質が漏出し、周辺の地質環境中を移行し易くなること

等が考えられる。

〈概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件〉

対象地域の隆起・侵食量からみて、処分場及びその周辺の地質環境に対し著しい変動をもたらすおそれがあることが、文献調査で明らかな地域については、主に、処分施設及び廃棄体が地表近くに接近することを避ける観点から、これを概要調査地区には含めない。

隆起・侵食量が文献調査から明らかでない場合は、概要調査あるいはそれ以降の調査において、処分施設の深度との関連も含め、隆起・侵食の進行に伴って、処分施設及び廃棄体が地表近くに接近する可能性の有無を検討する必要がある。(略)

(2)地震・断層活動

処分の安全確保に関する処分場及びその周辺の地質環境への主な影響としては、

・岩盤の破断や破砕に伴って処分施設及び廃棄体が直接破損すること

・岩盤の破断や破砕に伴って卓越した地下水移行経路が形成されることや、岩盤ひずみに起因し地下水圧が変化することなどの地下水の流動特性や水質が変化すること

等が考えられる。

〈概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件〉

処分施設を合理的に配置することが困難となるような活断層の存在が、文献調査で明らかな地域については、主に、処分施設及び廃棄体が直接破損することを避ける観点から、これを概要調査地区には含めない。

活断層の有無に関する判断が文献調査からできない場合は、概要調査あるいはそれ以降の調査において、処分施設を合理的に配置することが困難となるような活断層の存在の有無について検討する必要がある。

岩盤の破断や破砕に伴って卓越した地下水移行経路が形成されることや、岩盤ひずみに起因し地下水の流動特性や水質が変化すること等の影響については、“実際に概要調査を行うまでもなく、明らかに処分地として不適切と考えられる環境要件を示すこと”は困難なことから、概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件とはしないが、断層周辺の岩盤中に分布する小断層の範囲などにも留意し、当調査会において、同選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に、設計・施工での対応や処分システム全体の安全性能との関連も踏まえ、その取り扱いを審議する。

(略)

(3)火山・火成活動処分の安全確保に関する処分場及びその周辺の地質環境への主な影響としては、

・マグマの貫入あるいは噴出により処分施設及び廃棄体が直接破損すること

・マグマの熱等による地温上昇や熱水対流の発生、また、熱水・火山ガスの混入による地下水の水質変化

等が考えられる。

〈概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件〉

第四紀に活動したことのある火山の存在が、文献調査で明らかな地域は、主に、処分施設及び廃棄体が直接破損することを避ける観点から、これを概要調査地区には含めない。

第四紀に活動したことのある火山の有無に関する判断が文献調査からできない場合は、概要調査あるいはそれ以降の調査において、検討する必要がある。

なお、火山フロントよりも日本海側の地域や単成火山の周辺地域での新たな火山の発生の可能性などについても、当調査会において、概要調査地区選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に、その取り扱いを審議する。

(略)

(4)鉱物資源の賦存処分の安全確保に関する主な影響としては、

・鉱物資源の探査・採掘活動に伴って、埋設されている廃棄体を知らずに掘り起こし、その結果として、廃棄体からの放射線を作業者が受ける可能性

等が考えられる。

〈概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件〉

経済的に重要な鉱物資源の鉱床等の存在が、文献調査で明らかな地域は、処分の安全確保に関する影響の可能性を低くする観点から、これを概要調査地区には含めない。

現在、既に社会的に利用されている資源、あるいは、将来的にその利用が有望視されている資源、すなわち有用な金属や石炭・石油・天然ガス等のエネルギー資源など、鉱業法で定義されている鉱物を概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件の対象とする。

鉱物資源の存在が文献調査から明らかでない場合は、概要調査あるいはそれ以降の調査において、検討する必要がある。現在は資源とみなされていないものの、将来資源となる可能性のあるものについては、一般的な環境要件として論ずることは困難なことから、“実際に概要調査を行うまでもなく、明らかに処分地として不適切と考えられる環境要件を示すこと”に含めることは適当でない。その環境要件としての必要性に関しては、当調査会において、概要調査地区選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に、審議する。

(略)

(5)岩盤の特性処分の安全確保に関する主な影響としては、

・処分施設の設計(深度、規模、配置、廃棄体収容能力)が過度に制約されること

等が考えられる。

〈概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件〉

想定される処分施設の深度において第四紀の未固結堆積層が広く分布することが、文献調査で明らかな地域は、処分施設の建設可能性の観点から、これを概要調査地区には含めない。

第四紀の未固結堆積層が広く分布することが文献調査から明らかでない場合は、概要調査あるいはそれ以降の調査において、検討する必要がある。

第四紀の未固結堆積層を除く岩盤の特性の違いによる影響については、“実際に概要調査を行うまでもなく、明らかに処分地として不適切と考えられる環境要件を示すこと”は困難なことから、概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件とはしないが、断層破砕帯の分布などに係る地質構造、岩盤の規模や形状、岩盤の熱や力学に関する特性、及び岩盤の不均質性などに留意し、当調査会において、同選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に、設計・施工での対応や処分システム全体の安全性能との関連も踏まえ、その取り扱いを審議する。

(6)「環境要件」から除外した項目

その他、地質環境として考慮すべき項目としては、以下に示すように、気候変動・海水準変動、地下水の流動特性、地下水・岩石の地化学特性などが考えられるが、これらの処分の安全確保に関する処分場及びその周辺の地質環境への影響については、基本的に概要調査あるいはそれ以降の調査において明らかにされるべきものであり、“実際に概要調査を行うまでもなく、明らかに処分地として不適切と考えられる環境要件を示すこと”には適さず、概要調査地区選定段階での環境要件とはしない。

(後略)


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