[原子力産業新聞] 2002年8月8日 第2148号 <3面>

[OECD/NEA] 京都議定書関連で報告書

経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)は7月29日、「原子力と京都議定書」と題する報告書を公表し、「温室効果ガス削減における原子力の役割は同議定書で排除されたわけではなく、対象期間(2012年まで)以降の長期的な観点で重要な役割を果たしうる」との見解を明らかにした。

この報告書は、今月26日から9月4日まで南アのヨハネスブルグで開催される「持続可能な開発に関するサミット」に向けた情報発信のため、NEA事務局が加盟各国と協力して作成したもの。温室効果ガス削減に原子力が果たす潜在的な貢献や97年の国連気候変動枠組み条約・第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書との係わり合いについて重要な事実を客観的に分析した内容になっている。同報告書の概要は次の通り。

京都議定書では2008年から2012年までの対象期間に先進諸国のCO2排出量を90年レベルから平均5%削減することを目標としているが、90年代には世界全体でCO2排出量は約9%増加したほか、OECD諸国全体では10%以上の増加となった。

原子力は最も炭素排出度の低い発電技術であり、フル・エネルギー・チェーン(FEC)でキロワット時あたりの炭素換算排出量(gCeq/kWh) は2.5〜5.7グラム。これに対して化石燃料は105〜366グラム、再生可能エネルギーでは2.5〜76グラムとなっている。近代的な化石燃料発電所を原子炉で代替した場合を想定すると原子力は世界全体でエネルギー部門からのCO2排出量を8%以上削減。電力部門では17%以上を削減する計算になる。

また、原子力が無ければOECD諸国におけるCO2排出量は現在の約3分の1、すなわち年間12億トン増加することになり、これはOECD諸国におけるエネ利用からの総排出量の約10%に相当している。京都議定書はこのような原子力の利点を排除しているわけではなく、国内エネ供給源として原子力を引き続き採用する国では新規原子炉の建設が議定書の目標達成に寄与すると考えられる。

しかしCOP6では、同議定書の附属書1に属する国(先進国)がCO2削減目標を達成する上で利用できる3つの柔軟性メカニズムのうち、「排出権取り引き」を除く2つ(共同実施とCDM)で原子力を実施オプションから実質的に除外するとの条件が盛り込まれた。持続可能な開発については、これに関する様々な概念、また、これらの概念に適合するのはどのようなエネ・システムなのかという問題の中で原子力を同メカニズムに含めるか否かの議論が浮上。「原子力には持続可能なエネ戦略の構成要素となるのを妨げるような特徴はなく、中長期的に原子力の寄与を継続・拡大する柔軟性は維持すべきだ」とする考え方がある一方、安全性や放射性廃棄物処分、核兵器の拡散などの点から特に、「原子力の利用は持続可能ではない」との見解も存在している。

COP6では、あるプロジェクトが持続可能な開発に寄与するか否かの判断はその国自身に委ねるとしており、附属書1に属さない国(途上国)がCDM補助金を原子力開発に使用することは禁じるものの、原子力の採用自体を否定しているわけではない。

現時点では、議定書の削減目標や柔軟性メカニズムが適用されるのは、受諾期間である2008年から2012年の間のみ。議定書が発効すれば、原子力のようにCO2の排出がゼロに近い技術の重要度は高まるが、原子力が温室効果ガス削減で実質的に重要な貢献を果たすのは主にこの期間の後と考えられる。

この期間用の柔軟性メカニズムの2つから原子力がはずされたことは2012年までの原子力開発において多分に象徴的な意味合いがある。実際、同メカニズムによって原子炉が発注されたとしてもその基数はわずかなものと予想される。ただし、議定書の柔軟性メカニズムからはずされるに至った議論は対象期間後も否定的な要素となることが考えられる。その意味で、エネルギー部門からの温室効果ガスの排出緩和および安定化に向けた戦略の中で、原子力の今後の潜在的な役割について権威ある、信頼性の高い情報をNEAのような機関が提供し続けることが重要なのである。


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