[原子力産業新聞] 2002年10月3日 第2155号 <4面> |
[レポート] 東電不正問題で調査過程の評価委中間報告今後の改善策から 1面所報の通り、経済産業相の直属機関として設けられた東京電力点検記録等不正の調査過程に関する評価委員会は中間報告案をまとめ、申告に対する調査のあり方やその情報の公表など今回の問題に対する課題、今後の改善点を示した。今号で、そのなかから今後の改善策について、その概要を紹介する。 ▽今後の改善策 (1)申告処理・調査 (1)基本姿勢 保安院は、原子力安全行政において、「安全の確保」だけを達成すればよいのではなく、「信頼の確保」にも真剣に取り組む必要があるということをより明確に認識すべきであり、今後、申告があった場合には、それを重大な事故につながる可能性のある事案を早期に発見できる端緒と認識して、その上で、全ての申告案件について、特に安全性及び違法性の両方の観点から迅速かつ機動的に調査を行うことが求められる。 (中略) このため、保安院においては、今後、申告に関する調査の手法や手順、そのための人材や体制のあり方などについて検討し、必要な改善策を講じていくことが必要である。一方、原子力事業者においても、自らと国民との信頼関係を構築していく観点から、保安院からの調査があった場合には、これを自らの安全確保に対する取組を示す好機ととらえ、事実を解明し、その結果を公表するという確固たる方針を明確にして、協力的な姿勢で積極的に調査に応じることが必要である。 (2)調査手順・方法の明確化 保安院は申告案件に係る調査を進めるに当たっては、申告者名が匿名か記名か、申告の動機、証拠隠滅の可能性、申告の内容が事実であった場合の安全上の影響などを考慮しつつ、申告者、その関係者、原子力事業者などに対して適切な手順で調査していくことが重要である。このため、調査手順を明確化し、これに従って調査の各作業工程を管理する者を指名するとともに、標準処理期限を明示するなど、できる限り詳細な運用要領を策定することが必要である。また、国民、とりわけ地域住民の信頼を確保するためには、申告制度に係るこのような詳細な運用要領を公表することにより、調査手順の透明性を高めることが重要である。 (3)調査機能の強化 (略) 今回の申告2件についても、法律違反の疑いが強いとは言えない状況であったため、保安院は、法律に基づく報告徴収や立入検査を行わなかったが、今後は、任意調査だけに頼るのではなく、被規制者との関係でより透明性の高い行政行為を実施するという視点に立つことが必要である。このため、今後は、申告案件の調査に際しては、報告の対象とすべき事項やその理由などを明らかにしつつ、早い段階で、法律に基づく報告徴収を行うように運用を改めることが必要である。申告に基づく調査においては、請負事業者からも情報を集めることが有効であると考えられる。しかしながら、原子力事業者が一元的に安全確保の責任を負っている現行の法令体系の下では、請負事業者に対する法的強制力を伴う調査を導入することは困難である。このため、申告に基づく調査に際しては、案件に応じて、機動的な情報収集に努めることが必要である。また、請負事業者は、自らが原子力安全の一翼を担うとの自負を持って、保安院の調査に積極的に協力すべきである。 (4)外部有識者からなる申告調査委員会の早期立ち上げ 保安院が行う調査を監査・監督し、指導・助言する機関として、外部有識者からなる申告調査委員会を本年十月中を目途に立ち上げることが必要である。また、保安院は、申告調査委員会の了承の下で、調査手順に関するできる限り詳細なルールを策定し、公表すべきである。 (中略) 申告調査委員会は、「できるだけ早期に公表する」との基本姿勢に立ち、申告者の保護、証拠隠滅の可能性等を考慮しながら、公表のための条件や時期について意見を述べるなどの機能も期待される。 (5)専門人材の育成・確保と体制の整備 保安院は、調査能力の向上を図る観点から、調査に関し、経験や知見を有する外部人材の確保を図るとともに、併せて専門的な内部人材を育成していくことが必要である。また、これらの人材を活用しつつ、申告制度を有効に機能させるための保安院の体制の整備も必要である。 (2)申告者の保護等 より多くの者から、より容易に申告を行えるような環境を申告する者の立場に立って整備することが重要である。こうした観点から、保安院は、申告に基づく調査の過程において、請負事業者及び請負事業者の従業者からの申告についても、申告制度の目的にかんがみ、原子力事業者の従業者からの申告の場合と同様に、申告者の了解無くして関係者にその身元を明らかにしないなど申告者の保護を明確にすることが必要である。 (後略) 強い意志と使明感を (3)申告内容・調査結果に係る公表 国民の関心にかんがみれば、申告の内容の事実関係が未確定であっても公表すべきとの意見もあるが、他方で、申告者の立場の保護、申告内容の確度が低い場合には原子力事業者に対し不当な疑義を与える可能性があること、証拠隠滅の可能性等の観点から、公表に当たっては慎重に対応すべきとの指摘もある。 このため、保安院は、原子力安全に対する信頼の確保のために、まずは、可能な限り速やかに、申告処理件数や平均処理日数など、個別案件に係る具体的な情報を伴わない行政上の対応状況を定期的に公表することが必要であり、併せて、個別案件についても、案件の内容、処理状況に応じて、申告調査委員会の意見を伺いながら、できる限り早い段階での公表を行うことが必要である。さらに、原子力事業者と国民との信頼関係を構築していく観点からは、原子力事業者においても、社内での申告処理を監査・監督するための外部有識者からなる委員会を設定し、申告者の保護や証拠隠滅の可能性等を考慮しつつ、社内調査の結果についてできる限り自主的に公表していくことが強く望まれる。 (4)規制の在り方 (略) (5)行政機関及び事業者による国民への情報提供の在り方の見直し 国民、とりわけ地域住民にとっては、原子力に対する「安全の確保」とともに、「信頼の確保」が何よりも重要であることから、きめ細かな情報提供について積極的に取り組んでいくことが必要である。 そもそも原子力発電所も機械的なシステムである限り、軽微な事故やトラブルが生じうるものである。重要なことは、これらが適切に管理された状況におかれ、適切に対処されるかということであり、こうした絶え間ない努力により、原子力発電所の安全が確保されるものである。 一方、国民、とりわけ地域住民の「信頼の確保」という観点からは、単に「安全だから問題はない」とするのではなく、何らかの事故やトラブルが発生した場合には、それが軽微なものなのか、あるいは安全の確保に重大な影響を与えるおそれがあるものかなどについて、国民により正しく理解してもらうことが不可欠である。このような観点から、これまでの行政機関や事業者による国民への情報提供の内容や方法を見直していくことが必要である。 (後略) 6 、おわりに 今回の東京電力による自主点検記録の不正等に関する保安院の一連の対応を振り返ってみると、本件事案の発端は、申告者が指摘した機器が既に交換済みであったことなど安全面に限ってみればそれ自体は問題の大きくない個別案件であった。しかし、保安院によるこの調査を通じて、一義的に安全確保の責任を有する原子力事業者の保安体制やモラルの点に係る重大な問題が判明し、また我が国の原子力安全行政における取組姿勢や現行の安全規制上の問題の存在も明らかになった。従来、原子力に関しては、何よりも「安全の確保」が重視されてきた。これは炉規法及び電気事業法の目的が災害の防止や公共の安全と規定されていることから、保安院では当然のことと認識されてきた。しかしながら、この法目的を達成する上では、安全の確保に関する説明責任を十分に果たすことを通じて原子力安全行政に対する「信頼の確保」という役割を果たすことが不可欠の国民的要請となっている。本件事案は、保安院には、「安全の確保」だけではなく、国民、とりわけ地域住民の安全確保に関する「信頼の確保」についても同じような取組が必要であることを、改めて明確に認識させた。保安院は、今回の事案に係る一連の経過とそれに対する評価結果から得るべき教訓は計り知れないほど重大であることを強く認識し、真摯に受けとめ、反省することが必要である。また、原子力事業者も「信頼の確保」が求められていることを強く再認識し、猛省することが必要なことは言うまでもない。保安院と原子力事業者は、このような「信頼の確保」についての取組をより一層強化し、これまで以上の強い意志と使命感をもって、絶え間ない努力を続け、成果を目に見える形で具体化していくことが必要である。 (後略) |