[原子力産業新聞] 2002年10月3日 第2155号 <5面> |
[レポート] 米同時多発テロから1年(3)米国の近年史上稀に見るテロ事件から1年が経った。昨年9月11日の忌まわしいテロ攻撃について各人各様の思いを持っていると思う。あの日、家族や友人、同僚を失った人たちにとって、世界は2度と元通りになることはない。事件に遭遇しながら死を免れた人や、間近に現場を目撃した人たちにとって、その光景は永久に記憶に焼きついたままであろう。 われわれでも、1周年にあたるこの時期にテレビでその映像を見るだけで、あの日に感じたあらゆる感情が呼び起こされる。テロ行為が世界に与えた拭い去ることができない影響を考えるとき、1周年にあたって今後の影響について考察することが必要である。 テロ事件の余波をうけて、米国の重要なインフラストラクチャー周辺の保安に懸念が集まった。テロ攻撃による壊滅的な影響の可能性に対する一般市民の懸念によって、原子力界は特に影響を受けた。そのため、政府の方策が現在求められている。NRCはこれまでも、重要な方策を多く講じてきたが、まだ難問も残っている。 重要なのは次の基本的な3点である。第1に、原子力発電所の物理的防護は、9月11日以前も強力なものだったが、この1年間に一層厳しい防護基準が求められるようになった。国内の他のいかなる産業も、過去25年間にNRCが課してきたような厳しいセキュリティ基準を求められてはこなかった。第2に、9月11日以降、原子力発電所に対するテロ攻撃の確かな脅威はなかった。テロリストがつぎにいつ、どこを攻撃してくるか予測することは難しいが、原子力発電所の保安警備が強固であれば、それ自体相当な抑止力となるはずである。第3に、NRCは、これまでのセキュリティ戦略を再検討して、適切な防護が長期的に確保できるか確認する必要性があることを認識した。 テロの脅威に備えるために、NRCは次のような措置を講じた。主要な原子力施設を対象に30以上の防護措置を取ると同時にテロの脅威に関する勧告を出し、それら施設の警備を最高レベルに引き上げた。そのほかの措置には、原子力発電所への進入規制の強化、原子力施設と情報機関や警察など政府部門とのコミュニケーションの改善、原子力発電所の弱点について初期の評価を完了し、資源の集約を図ること、原子力発電所の防護計画の基礎とする設計基準脅威の改正、原子力発電所における防護措置実施状況の3年ごとの徹底的な見直し、脅威勧告防護システムの整備、国民の健康と安全にきめて有害な放射性物質の防護手段の再評価‐‐などである。 以上の措置を講じても、取り組むべき問題はまだある。1番目は、原子力発電所の運転者にとって可能な防護能力には限界があるため、発電所の防護組織と政府組織との役割分担が必要である。2番目には、あらゆる種類の重要なインフラストラクチャーを防護するための国の一貫した戦略が必要である。原子力産業は9月11日以前にすでに大規模な防護能力を備えていたことを考えると、先駆者といえる。3番目に、一定の分野で情報公開とセキュリティ維持とのバランスを考えるという難題がある。4番目に、原子力発電所への攻撃や放射能拡散兵器の使用が、必ず壊滅的な結果をうむという国民の過剰な恐怖心から来る不安にも応える必要がある。賢明な判断を行うためには、原子力問題についてより現実的に評価することが必要である。最後に、セキュリティに対して気を緩めることはできないとはいえ、NRCの責務は、国民の健康と安全をあらゆるできごとから守ることであり、その責務をセキュリティだけに向けたり、あるいは他の責務を削ったりするようなことがあってはならない。 米国特有の問題もあるかもしれないが、原子力発電所計画を持っている国は、同じような問題に直面しているのではないだろうか。原子力施設は、米国で最も強固で万全な防護体制を備えた民間施設であるが、われわれはその防護体制をさらに強化する必要があると考えている。NRCは、国民の健康と安全を護り、国の防衛と安全保障を果たすべく全力を傾けている。この一年間で多くのことを成し遂げが、さらにすべきことがあり、実施している最中である。 (おわり) |