[原子力産業新聞] 2002年10月10日 第2156号 <4面>

[法制小委] 東電問題の再発防止策、中間報告の概要

既報の通り、原子力安全・保安部会の原子力安全規制法制検討小委員会(委員長・近藤駿介東大院教授)は1日、東電不正問題の再発防止策案をまとめた。今号で、同報告案から具体的な再発防止策について抜粋し、その内容を紹介する。

▽具体的な再発防止策

1.事業者の安全確保活動に対する信頼の確保

(中略)

(1)事業者による自主点検の法的位置付けの明確化と国の検査・審査による信頼の確保

 現行の法体系においては、原子力発電施設について、国が範囲を定めて「定期検査」を実施し、これらの安全性を確認している。同時に、事業者が安全確保に係る品質保証活動の一環として自ら計画して自主点検を実施しているものもあるが、これに関しては、その要否、検査方法等検査に係るルールがなんら規定されていない。この点において、現行の原子力安全規制に係る制度は不明確である。

 よって、今般の事案を踏まえ、安全確保のために事業者によって実施されている現行の自主点検を法令上に「自主検査」として明確に位置付け、その実施を確かなものにする。

また国は、事業者が行う「自主検査」が適切に行われているかどうかを客観的に審査するため、事業者の「自主検査」の実施に係る組織・体制等を審査し、このうち不十分な点があれば改善を促す仕組みを整備するとともに、審査結果の情報を公開すべきである。

(後略)

(2)自主検査結果の記録・保存の義務化

事業者が行う「自主検査」が適正に行われ、かつ、原子力発電施設の安全性が確保されていることを検証するためには、当該検査の結果が適正かつ確実に記録され、保存される必要がある。このため、事業者が「自主検査」を行うに当たり、当該検査の結果を記録し、保存することを法令上要求することとし、記録がない場合や虚偽の記録を行った場合の罰則を定めるべきである。

(後略)

(3)設備の健全性評価の義務化とその手法の整備

事業者が行う「自主検査」において、原子力発電施設の各設備、機器等にひび割れ等が検出された場合には、現行制度において当該設備等に求める安全水準を維持することを前提に、事業者自らが当該ひび割れ等の進展が安全性に与える影響を評価しなければならない。その評価結果に基づき、当該設備等が有すべき安全性を維持するために必要な対策が講じられなければならない。このため、このような評価をすることを法令上の要求事項とするとともに、事業者が行う安全性の評価が明確なルールの下で実施されるよう、国は、民間規格の活用を含め、科学的・合理的な根拠に基づく信頼できる基準を整備することが必要である。

2.事業者の安全確保活動における品質保証体制の確立

事業者が適切な安全確保活動を行っていくためには、その経営トップが明確にした安全方針に則って、適切な品質保証体制の下で、法令等による義務を遵守しつつ、原子炉の運転管理はもとより設備の点検・検査・保守・保全等に至るまでの安全確保活動が実施される全社的体制を構築することが求められる。そして、その取組状況をできるだけわかりやすく、比較可能な形で社会に示し、理解を求めていくことが求められる。そのため国は、こうした取組が各発電所のみならず全社的取組として適切になされることを確かなものとするため、事業者が法令上定めるべきものとされている「保安規定」の認可に当たり、本社及び各発電所の安全確保活動においてその品質保証体制を構築し、その品質保証システムが有効に働くための要求事項を明確化して、「保安規定」の中に定めることを条件の一つとすべきである。

具体的には(1)本社及び各発電所ごとに品質保証体制を確立すること(2)その際には原子炉主任技術者の役割と責務を明確にすべきこと(3)品質保証の国際規格であるISO9000シリーズや米国規制当局の基準など海外の先進的な規格基準を念頭に置いた独立監査の仕組みを内在する適切な運営体制を整備すること

(4)「自主検査」等で発見された設備の不具合について適切に評価・対応できる社内組織・意思決定プロセスを確立すること(5)従来任意で行われてきた定期安全レビューを原子力発電所の安全確保活動を事業者自ら定期的に評価する仕組みとして位置付けることを「保安規定」の要求事項として明らかにすべきである。

(後略)

3.事業者による法令遵守への取組の強化

(略)

4.規制制度の運用の明確化及び透明化

今般の事案の背景要因として、国の安全規制制度の運用が不明確なところがあったとの指摘を踏まえ、この制度運用の一層の透明化を図るとともに、運用基準を明確化すべきである。

(中略)

また、トラブルに関する報告についても、その法的位置付けを明確にするとともに、「自主検査」時に発見されたひび割れ及びその兆候について、事業者が安全性への影響の有無を科学的・合理的に評価し、報告すべきものか否かを的確に判断できるよう、その報告基準をできる限り定量的な基準に改めるべきである。

(後略)

5.申告制度の運用の改善

(略)

 6.軽微な事象に係る情報の公開と共有化

「自主検査」の結果の記録・保管の義務化、ひび割れ等の評価の実施とその手法の整備、トラブルに関する報告基準の見直し等を行ったとしても、今般の事案に関連して公表されたひび割れ及びその兆候についての情報の多くは、トラブル情報として国への報告の対象とならない軽微な事象となる可能性がある。

こうした軽微な事象自体は、安全規制を行う上でも問題のないことであるが、当該事象に係る情報を事業者、原子炉等のメーカー、大学・研究機関、規制当局など産官学で共有し、活用していくことは、より大きなトラブルの予兆を察知し、これを未然に防止する上で重要なことである。さらに、安全確保の上からは、軽微な事象であったとしても、その事象を公開しないことは、社会の不信感を生じさせるおそれがある。このため、情報公開の徹底の一環として、事業者は、軽微な事象であったとしてもその情報を適切に公表すべきである。

国は、軽微な事象の判断が的確になされるよう、報告基準上の位置付けを明確にするなど、関係基準等を的確に整備すべきである。

(後略)

7.安全規制に対する信頼の回復への取組

国民や地域住民の失われた信頼を回復していくためには、前記の制度的な課題への取組を進め、国及び事業者が国民や地域住民に対して説明責任を果たすことが重要である。中でも規制当局である保安院は国民の視点に立ち、透明性を向上させ、説明責任を果たすことが求められる。その際、安全性について科学的・合理的な説明を行い、国民や地域住民と情報が共有されることにより、国民や地域住民の信頼が得られるというプロセスが重要である。

(後略)

 8.安全規制の制度及び運用の点検

安全規制の実効性を高めるため、現在の法令・通達等に基づく規制を対象として、改善すべき事項を洗い出していくことが必要であり、次のような課題について点検・検討を行うとともに、国際的な規制制度、規格基準の動向等を踏まえつつ、規制手法の有効性を検証して、実効性と有効性の観点から規制の在り方等について、具体的なスケジュールを示しつつ、積極的な検討に取り組んでいくべきである。また、検査制度については、「検査制度の在り方に関する検討会」を早急に再開し、検討を進めていくことが必要である。

(1) 産学官の連携の強化により、新技術や内外の実績のある工事方法、修理工法等の技術的評価を蓄積し、許認可に当たっての技術判断の迅速化・的確化や民間規格策定への反映を図ること(2) 技術革新、国際化等に対応した技術基準の性能規定化及び中立・公開を原則とした学・協会で策定された民間規格を活用すること(3) 検査の受検に係る手続、検査の実施要領等の検査に係る規定を明確化すること(4) 検査官の資格に応じた体系的な研修の実施、海外の関係機関への派遣等を通じた検査に係る人材の質的向上及び実効性のある検査の実施に必要な体制の充実・強化を図るための検査官の量的確保を図ること(5) 検査に関する技術開発を更に促進し、原子力の知的安全基盤を整備すること。

おわりに

今回の事案は、原子力安全規制や原子力事業に対する国民の信頼を大きく損なうものであった。この小委員会では、今般の事案が発生した要因及び今回の事案が明らかにされた後に各方面から寄せられた意見を踏まえて集中的に検討を行った。その結果、本小委員会としては、事業者が安全確保、法令遵守の責任を負うことはもとより、自主保安についてもルールに従い適正に行うこと、国がこれらの点について適正に確認していくことが、国民の信頼確保の上で不可欠であるとの認識に立って、信頼回復のために緊急に必要となる措置を、法制面に関わるものを中心にとりまとめた。

原子力安全規制や原子力事業に対する国民の信頼を回復するためには、規制当局においては今回の反省に立ち、制度の実際の運営に当たり透明性の向上に努めるとともに、国民や地域住民に対する説明責任を果たすための努力、技術基準の整備などの努力を積み重ねていくことが必要である。

(後略)


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