[原子力産業新聞] 2002年11月21日 第2162号 <4面>

[放射線育種場、原研、沖縄農業試験場] イオンビーム使いキクの新品種

農業生物資源研究所放射線育種場と日本原子力研究所高崎研究所、沖縄県農業試験場は12日、イオンビーム照射と植物の再分化技術を用いて、キクの原品種「大平」から6種類の実用的花色突然変異品種の育成に成功したことを明らかにした。この技術は従来の突然変異育種に比べて、キメラのない遙かに幅広い種類の突然変異体が誘発でき、今後ほかの作物への適用が期待されるという。

突然変異を利用した農作物品種の育成は、これまで世界では2200品種以上、わが国では280品種が登録され、大きな成果を上げている。突然変異を起こすための手段(変異原)は、国内外ともにガンマ線(エックス線を含む)が最も多く、70〜80%を占めている。放射線照射による突然変異育種は、その植物に見られない新しい形質を創り出せる、特定の品種のある一形質だけを改良できる、植物の種類を選ばずあらゆる植物の改良ができる、比較的短期間で品種が育成できる、といった利点があることから、今後さらに突然変異育種技術の効率を向上させるための新たな変異原と誘発方法の開発が求められている。

従来、キクでは培養技術を用いてガンマ線照射を組み合わせることにより、キメラのない花色の突然変異体を誘発できる技術を開発しており、10品種を育成している。これまで培った培養技術をベースに、近年新たな放射線として登場したイオンビーム照射と組み合わせることにより、ガンマ線とは異なる花色の突然変異品種の育成をめざした。

今回の成果によって、イオンビーム照射の技術とキクの再分化技術との複合法が確立され、これまでの突然変異育種の効率を飛躍的に高め、また、突然変異の可能性を大きく拡大できるほか、イオンビームはガンマ線では得にくい突然変異体が得られ、新たな変異原として突然変異育種の幅を広げた。さらに育成された6つの突然変異品種は、花色のバラエティと複色を持ち、同時期に開花するので、新たな花の需要を広げることが期待できるという。

なお今回の方法は、キクだけでなく培養再分化手法が確立された作物では、広く適用することができる。


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