[原子力産業新聞] 2003年1月7日 第2167号 <3面>

[米・電力研究所] 航空機テロで分析調査

 米国の非営利のエネルギー研究共同組織である電力研究所(EPRI)は先月23日、同時多発テロ事件のように大型旅客機が国内の原子力発電所を直撃した場合の分析調査で、原子炉格納構造が多少の損傷を受けたとしても、放射性物質が外部に放出される危険性は少ないとする報告書を明らかにした。

 これは米原子力エネルギー協会(NEI)の依頼によりEPRIが米エネルギー省(DOE)の経費負担で過去数か月間にわたって実施した独自の調査で、最新のコンピュータ・モデリング技術を駆使。国内で稼働する百三基の原子炉で典型的な格納構造を想定するとともに、使用済み燃料の貯蔵プールや乾式貯蔵コンテナおよび輸送コンテナについて、ボーイング767型機が最大重量で突っ込んだ場合の衝撃影響を分析したとしている。ボーイング767型機を選択した理由としては、現在、国内就航航空機の三分の二がボーイング社製であり、その中でも767型機が88%を占めているという事実を挙げている。

 作業には百万ドル以上の経費を投入しており、カリフォルニア州のABSコンサルティング社およびANATECH社が雇用した世界的にも著名な専門家達が実際の分析作業や相互レビュー作業に当たったとしている。EPRIによると特筆すべきなのは、国防総省ビル(ペンタゴン)が襲われた時と同じ状況の再現を意図し、大型機が地表近くの低空から同程度の速度で突っ込むことを想定した点だ。離陸時の最大重量が四十五万ポンド(225トン)である767型機の胴体およびエンジン(重量9500ポンド)が両方直撃した場合に受ける最大影響などを分析。速度はペンタゴン衝突時のフライト・レコーダー、警備カメラの情報をもとに350マイル(560キロメートル)/時を想定した。熟練パイロットの経験から言っても、低空から正確に目標に突っ込もうとした時に操縦性を維持するにはこの速度が現実的だという。

 そもそも米国で典型的な原子力発電所の建屋は高さも幅も140フィート(42メートル)程度で、地上千353フィート、幅208フィートの世界貿易センタービルや横幅が1489フィートもあるペンタゴンと比較するとかなり小さい。このため、翼長が170フィート(51メートル)、エンジン間隔が約50フィート(15メートル)の767型機で胴体とエンジンの両方が原子炉建屋にぶつかることは、まず物理的に不可能だとEPRIでは指摘している。NEIとしては保安上の理由から分析データの詳細すべてを明かすことはできないとしながらも、次のような点を一般的な分析結果として公表した。

(1)PWRとBWRの格納建屋モデルに関して、航空機のエンジン、胴体、翼、もしくはジェット燃料のいかなる部分も建屋内に入ることはなく、従って衝撃およびそれに伴うコンクリートの粉砕で格納構造が破られることはない。

(2)PWRとBWR、両方の使用済み燃料貯蔵プールモデルについて評価した結果、コンクリート壁が粉砕されたり亀裂が生じたとしてもステンレス鋼製の内張りによって冷却用水が漏洩することはなく、放射能が環境中に放出されることもない。

(3)使用済み燃料の乾式貯蔵施設を分析した結果、スチール製キャニスターが破れることはなく、このため環境への影響もないと考えられる。

(4)使用済み燃料の輸送用キャニスターについて分析したが、これが破られることはなく、従って環境への放射性物質放出も考えられない。

 NEIのJ・コルビン理事長はこのような結論について、「原子力産業界はこれまで、原子力発電所は非常に堅固で大型旅客機の衝突からも核燃料を守ることができると信じていたが、それが今回きちんと実証されることになった」と評価。衝突の衝撃によって原子力発電所の発電能力に甚大な被害が及ぶことはあっても、一般大衆の健康や安全性は防護されるとの認識を表明している。


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