[原子力産業新聞] 2003年2月13日 第2173号 <4面>

[原研] 放射線影響研究テーマに国際ワークショップ開く

 日本原子力研究所は、2月6日、7日の両日、同研究所の東海研究所で、「放射線リスクと分子・細胞レベルの影響メカニズムに関する国際ワークショップ」(=写真)を開催した。このワークショップは、放射線生物学、構造生物学、分子生物学、情報生物学等様々な分野において、放射線影響の仕組みについて先端的な研究を行っている研究者の発表をもとにして、分子レベルのメカニズムから放射線リスクへのつながりを議論するとともに、放射線影響メカニズム研究に基づくリスク評価への今後の道筋を探ることを目的としたもの。それぞれの研究分野から第一線で活躍する研究者が最新の研究状況を報告した。また報告を踏まえてパネル討論を行い、今後の課題をめぐって、様々な研究分野の研究者が同じテーブルで意見を交わした。

 ワークショップの冒頭にあいさつした原研の松鶴秀夫保健物理部長は、人体など放射線影響のメカニズム研究にはまだ取り組むべき課題が多く、今後様々な分野での関連研究が戦略的に統合・活用される必要があると述べた。

 また京都大学の丹羽太貫教授は、研究者には研究対象を切り刻むように究明していくタイプと、溶接するようにつなげていくタイプの二つがあるとし、放射線影響のメカニズム研究も双方のタイプがバランスよく統合されることが必要との見解を示した。その意味で、同ワークショップは両極の研究者のコンセプトを共有する良い機会であると、活発な議論への期待を示した。

 研究報告のなかで放射線影響研究所のウォルドレン氏は、電離放射線による遺伝的不安定性のメカニズム研究の状況について報告。電離放射線を受けて生じるラジカルのなかで、後発的な影響を生体細胞等に及ぼすラジカルに着目したガン発生メカニズム研究の報告等を行った。また同研究所のピアース氏は、原爆で高線量を受けた患者の発ガンリスク等の調査を通じ、放射線の影響でどの年齢でも一定のリスク増加が見られるとするモデルに基づくガン発生メカニズム研究について報告した。

 電力中央研究所低線量放射線研究センターの酒井一夫氏は、発ガン過程における線量率効果について報告。同氏は、中国の自然放射線レベルの比較的高い地域の住民調査で、ガンによる致死率が逆に低いケースもみられる例などを示しながら、多くの課題がある線量率効果に関する研究をさらに追究することが重要とした。

 ワークショップではこのほか、DNAレベルでの放射線影響に関するシミュレーション研究をはじめ、放射線分子生物学における最新の研究動向がぎ報告され、研究者相互の活発な意見交換が行われた。


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