[原子力産業新聞] 2003年2月20日 第2174号 <3面>

[英王立協会] 原子力の維持、政府に勧告

英国の各分野で指導的な立場にある学者達で構成される英王立協会は10日に発表した声明の中で、政府が策定中のエネルギー白書において「政府は政治的な英断を示さねばならない」と言明し、既存の原子力発電設備を化石発電設備で取り替えるような計画を導入すべきでないとの見解を表明した。

この声明は同協会の総裁や副総裁などが連名でまとめたもので、新たなエネルギー白書で新規原子力発電所の建設モラトリアムが次の総選挙後も温存されるようなら、もはや「原子力オプションの維持」とは言えなくなると指摘。たとえ建設の可能性を今後も残すこととし、後にモラトリアムを解除したとしても、今後十五年間で新たな原子炉が英国で運転されることはなく、その頃には英国の原子力設備は現在の半分に低下するはずだと訴えている。

声明はまず、英国のCO2排出量が過去2年間に増加しているという事実に言及。今後30年の間に既存炉すべてを閉鎖すれば気候変動による最悪の影響を防ぐのは難しくなるとの見方を示した。そして、再生可能エネルギーとエネルギー効率を向上させる対策の開発が脱原子力による損失分をカバーするほど進まなかった場合、英国は一層化石燃料発電に依存することになり、CO2排出量を激減させることは難しくなると強調。政府の試算でも2010年には化石燃料による発電量は九五年レベルを上回るとの結果が出ている点を指摘した。

声明文はまた、英国が再生可能エネの開発目標値を上げるとともに無駄なエネルギー使用の削減目標を掲げることは好ましいことだとする一方、専門家の多くが「2010年までに再生可能エネによる発電シェアを10%に拡大するという目標設定は意欲的だが、すでに現実的ではなくなっている」と見ている点を指摘。原子力発電所の閉鎖に伴うエネルギー供給不足を完全に埋め合わせるには、再生可能エネやエネ効率の向上対策を適切な規模で開発できるよう一層多くの投資が必要だと強調している。

王立協会はさらに、「政府は原子力や再生可能エネルギー、およびエネ効率向上対策がCO2排出量の劇的な削減にどれほど貢献できるかを明確に説明するなど、エネルギー白書の策定において政治的な英断を示さなくてはならない」と主張。白書では十分なエネルギー供給をいかに保証し、放射性物質やCO2の形態に限らずエネルギー生産に伴う廃棄物をいかに管理し、エネルギー効率をいかに向上させるかについて統一の取れた考え方を実証しなくてはならず、廃棄物や発電所の操業を別々の省庁が担当しているからと言って、英国民の将来のエネルギー需要を満たすための首尾一貫した政策の策定が妨げられることがあってはならないと結んでいる。

なお、同声明文は原子力発電に関して特に、「もし政府が実際に、現在の原子力政策を変更するというなら、当協会としては新規原子炉の建設計画が放射性廃棄物の長期的な貯蔵・処分戦略を伴うものになるはずと信じている」とコメント。五〇年代の核開発プログラムや民生用原子炉の操業によって生じた既存の廃棄物、および今後の原子炉操業や廃止措置から発生する廃棄物の長期的な貯蔵・処分は英国が解決しなければならない問題だと強調した。ただし、新規の原子炉建設を決める前に必ずしも解決策を決定しなければならないわけでもないとの考えも表明している。


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