[原子力産業新聞] 2003年3月13日 第2177号 <3面>

[フィンランド] 政府委、原子力賠償額の増加 勧告

フィンランドのエネルギー産業連合会(FINERGY)が伝えたところによると、同国の原子力損害賠償問題委員会は5日、原子力施設事故で生じた損害に対して事業者が支払う第三者賠償責任保険補償に無制限の原則を導入するよう勧告する報告書を政府の貿易産業省に提出した。

同国は現在、原子力施設の事業者が2億5000万ユーロ(322億5000万円)を上限とする賠償責任義務を負っているほか、国が1億7700万ユーロ(228億円)まで賠償金を支払うことになっている。委員会の勧告に従って補償額を無制限とする原理を導入すると、事業者に求められる賠償責任補償額は少なくとも7億ユーロ(903億円)に急増。補償額がこれを超えた場合、事故を起こした施設の保有国が負担するのは最高5億ユーロ(645億円)ということになる。そして、事業者に対する賠償限度額は徐々に上げていき、最終的には保険契約のカバー範囲内である12億ユーロ(1548億円)まで増額するよう示唆している。

2001年8月に設置された同委は、フィンランド国内の第三者原子力損害賠償制度を修正する必要性について事前の評価作業を進めているほか、関連の国際条約でOECD/NEAが受託している「パリ原子力賠償責任条約」、およびその加盟国政府からの補足的な補償を規定した「ブリュッセル補足資金調達条約」についても、修正された場合にどのような影響が生じるか調査しているところ。同委としては報告書の中で、フィンランドの制度は欧州モデルの一部分として改善すべきだとしており、原子力損害賠償に関する国際条約のいかなる修正事項もフィンランドでは出来得る限り速やかに遵守しなければならないとしている。

同委員会はまた、新たな賠償上限額となる12億ユーロを超えた場合は、ブリュッセル条約加盟国が追加賠償金として最高3億ユーロまでの支払いに応じるべきだと言明。国内の原賠法もまた、損害を被った住民の損害請求期間を延長するとともに、被害地域適用範囲も拡大できるよう修正すべきだとしている。

このほか同委員会は、テロ活動で原子力施設が被った損害をどのように賠償制度の範囲に含めるか検討すべきだと勧告。国際条約レベルでは、パリ条約もこの点については具体的に定めていないという事実に言及している。

なお、今回の委員会報告についてFINERGYのJ.サンタホルマ理事長は「事故の被害者にさらなる利益をもたらすものではない」と断言。金融・株式市場を混乱に落し入れる要素となるだけだと述べ、導入に反対の意を表明した。同理事長は「政治的な理由でパリ条約の主流から逸脱することよりも原発で高品質で安全性の高い操業維持のために投資することの方が重要だ」と強調しており、万一原子力発電所で事故が起こっても影響を内部に閉じ込めておける留めておけるよう多重防護の原則を建設と操業に適用しておくことが大切だと訴えた。


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