[原子力産業新聞] 2003年3月27日 第2179号 <4面>

[原子力安全・保安院] 設備健全性評価の概要 地元説明進める

 2面所報の通り、原子力安全・保安院は21日、柏崎市で、東京電力における一連の不正問題への対応などについて地元住民への説明会を行った。一部プラントに確認された炉心シュラウドのひび割れなどについて、その健全性評価をまとめて新潟、福島など地元への説明を重ねている。今号では、柏崎市で開かれた住民説明会の質疑を含めて、先に保安院がまとめた原子力発電設備の健全性評価に関する中間とりまとめから、その概要を紹介する。

◇ 概 況 昨年8月29日に東京電力が原子力発電所の自主点検記録に不正がみられたことを公表して以来、規制当局である原子力安全・保安院は電力会社など原子力施設を有する16事業者に同様の不正事案がないかなど総点検するよう指示した。その総点検のなかでいくつかの原子炉の炉心シュラウド、原子炉再循環系配管にひび割れがあることが判明したことから、保安院は、ひび割れの状況や健全性について詳しく調査することを指示していた。各調査報告は保安院の評価に加え、原子力安全・保安部会に設置した原子力発電設備の健全性評価等に関する小委員会で評価、検討を進めており、個別プラントの健全性評価はなお進行中だ。

◇ ひび割れの状況

 これまでの調査で、炉心シュラウドのひび割れは、東北電力の女川、東京電力の福島第一、第二、柏崎刈羽、中部電力の浜岡のBWRプラントに計25件のひび割れがみられ、応力腐食割れ(SCC)が原因と推定された(左表に一覧)。発生場所は炉心シュラウドのリング部溶接線に沿ったひび割れ、胴部で放射状に発生するひび割れなどが確認された(下表にシュラウドひび割れの状況)。原子炉再循環系配管については事業者がなお点検を継続中だが、今月10日までの時点で東北電力の女川1号機に十か所、東京電力の福島第二・2号機で1か所、同3号機に9か所、同4号機に3か所、柏崎刈羽1号機に26か所、同2号機に3か所、同3号機に2か所、中部電力の浜岡1号機に2か所、同3号機に7か所(内5か所は過去に認められたもの)、同4号機に2か所のひび割れが確認されている。いずれも配管内面の溶接部付近で発生しており、再循環系配管の全体にひび割れが発生していた。

◇SCCに新たな対応

 中間とりまとめは、こうした調査検討の結果、ひび割れの原因と考えられる応力腐食割れに関して新たな知見が得られたとして、今後の対応として必要な事項を示している。

 新たな知見としては、@再循環系配管の内面に、溶接時の加工により、ごく表層に硬化層が形成されていることAシュラウドの溶接残留応力は、軸方向のみならず周方向も高くなるため、応力の影響により複雑なひび割れ形態を呈する場合がある。また、製作時のグラインダ加工等により、同様の傾向を示す場合があるBSUS316系材では母材で発生した応力腐食割れが溶接金属中へ進展する場合がある−の三点を示した。

 このため、@材料表面の硬化による初期応力腐食割れ発生のメカニズムA粒内型応力腐食割れにより発生したひび割れが、その後、粒界割れを示す応力腐食割れ進展のメカニズムB溶接金属における応力腐食割れの発生・進展挙動−をそれぞれ究明していく必要性をあげた。

◇健全性評価の基本的な考え方

 ひび割れのみつかった炉心シュラウド等の健全性の評価は、まず炉心シュラウド等の機器の重要度や構造上の特徴を踏まえて行われている。現行の法令に照らして、運転中に想定される最大の地震荷重を含めた力がかかった場合でも構造強度が確保できるかどうか等を解析によって確認することとしている(右上の図にシュラウドの健全性評価の基本的な流れ示す)。

 具体的には、まず必要な炉心シュラウド等の部材断面の面積(必要残存面積)を求め、その必要残存面積と、現時点でのひび割れの面積を考慮した残存面積およびひび割れの進展を算定した5年後の残存面積とをそれぞれ比較して評価している。残存面積の算定には、ひび割れ部分を実際に測定されたものより大きめに見積もるとともに、ひび割れの進展評価も、実機を模擬した実験データの上限値まで含めた進展速度を使用するなど、かなり安全側に保守的な評価方法をとっている。

 炉心シュラウドと原子炉再循環配管の健全性評価について保安院は、これまでにいくつかのプラントの健全性評価等の見解まとめ、原子力発電設備の健全性評価等に関する小委員会に説明を行った。

 健全性小委は、保安院の見解などを検討し、炉心シュラウドについては小委は、東北電力の女川1号機、東京電力の福島第一・4号機、福島第二・3、4号機、柏崎刈羽1、2、3号機、中部電力の浜岡4号機については、現時点及び5年後においても十分な構造強度を有しており、直ちに補修等の対策を講じる必要はないが、今後適切な頻度で点検を実施すべきと評価した。

◇再循環配管については検査方法に課題も

 一方、原子炉再循環配管のひび割れについて健全性小委は、ひび割れの測定データに一部差異がみられたため、超音波探傷検査の改善と信頼性の実証が求められるととの考え方を示している。また改善された超音波探傷方法の信頼性が実証されれば、炉心シュラウドと同様に、ひび割れの現時点での構造強度の評価に加え、五年後のひび割れの進展状況を予測して、5年後においても十分な構造強度を有しているかを評価するとの評価方法が適切であるとしている。

 一部差異のみられたケースについて保安院は、健全性小委の見解をふまえ、改善された超音波探傷方法の信頼性を実証するには一定の期間が必要なことから、それまでの間に運転を開始する場合に、ひび割れの除去や配管の交換などにより対応するよう事業者に求める方針としている。


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