[原子力産業新聞] 2003年4月3日 第2180号 <5面> |
[原研] 世界最高の出力発生に成功日本原子力研究所(齋藤伸三理事長)光量子科学研究センターの山川考一副主任研究員らのグループは3月28日、これまで開発を進めてきたチタンサファイアレーザーを完成し、30兆分の1秒(33フェムト秒)という極めて短い時間ながら、小型レーザーとしては世界最高の出力である850兆ワット(0.85ペタワット)のレーザー光を発生させることに成功した、と発表した。 ペタワット級の高出力レーザーは、これまでに世界で二か所、米国ローレンスリバモア研究所および大阪大学レーザー核融合研究センターにおいて開発されている。しかし、いずれもレーザー核融合研究を目的として建設されたレーザーであり、ひとつの建物を占有する巨大なものだった。このため、一般の研究施設の実験室に置ける小型の装置で、同等の高出力レーザー光が得られるようになれば、原子物理学をはじめとする科学研究や、産業・医療などへの応用研究が、大きく進展するものと期待されていた。 光量子科学研究センターでは、レーザーの発光時間(パルス幅)を極めて短くすることで高出力レーザー装置を小型化する研究を進め、1998年には小型レーザーとしては当時の世界最高出力である百兆ワット(百テラワット)を達成した。 その後も、ペタワット級への高出力化を目指して、技術開発を進めてきたもの。極短パルスのレーザー光を高出力に増幅する従来技術であるCPA(チャープパルス増幅)法は、レーザー光に含まれるわずかな波長の分布(スペクトル)を利用して、パルス幅を一度拡張した状態で増幅し、最後に再び短縮するというものだったが、最大の問題は、ペタワット級の高出力になると、増幅時にスペクトルが変化してしまい、最後のパルス幅短縮がうまくできなくなることだった。 このため二枚の薄膜フィルタを組み合わせ、互いの角度を調整することによってスペクトルを矯正する新しい方式を開発して、増幅器内に設置することによって今回、この問題を克服した。また、レーザー媒質として用いているチタンサファイア結晶内の「寄生発振」と呼ばれる不要な発光がレーザー光の増幅を妨げる原因となっていたので、その抑制のため、結晶の側面を特殊なプラスチックで包み込む技術を新たに開発した。これらの新技術の開発と適用により、今回の成果を得ることができたという。 今回開発した小型のペタワットレーザーを用いることにより、高出力レーザー光が作り出す超高強度、超高圧、超高密度等の極限状態の下で初めて発現する現象の研究が飛躍的に進むものと考えられる。光量子科学研究センターでは、すでに多価イオンの発生実験や電子の高エネルギー加速に関する研究を進めている。これらの研究は、レーザーを利用した小型放射線源の開発につながり、医療診断への応用や粒子線がん治療装置の小型化・普及などに貢献するものと期待されている。 |