[原子力産業新聞] 2003年4月25日 第2183号 <3面>

[国連環境計画] 劣化ウラン弾の影響で報告

 国連環境計画(UNEP)は3月25日、94年から95年にかけてNATO軍がボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で使用した劣化ウラン(DU)弾の影響に関する調査報告書を公表し、一部地域で飲料水に汚染が見られたほか大気中にもDU粒子が残存することを初めて認める一方、「汚染レベルは非常に低く、住民の健康と環境に対して緊急に放射線学的、化学的毒性のリスクをもたらすものではない」と結論付けた。

 今回の報告書は、世界保健機関(WHO)と国際原子力機関(IAEA)の代表を含む十七名の欧州の専門家チームが、昨年十月に現地の十五か所で収集したデータに基づいてまとめられたもので、UNEPが2001年にコソボで、02年にセルビアとモンテネグロで実施した調査の結果と同様の結論を導き出している。

 DU弾の影響についてはその破片による飲料水や土壌、大気の汚染、発ガン率の増加などが疑われていることから、データの収集作業においてIAEAは放射性廃棄物の貯蔵や取り扱い状況について審査した。報告書中の健康影響に関する章でWHOは「適切なガン患者登録および届け出システムが存在しないため、DUを原因とする健康影響の拡大は立証できなかった」と指摘。ウランとDUの健康影響に関する既存の科学的データは、これまで報告された健康上の問題がDUに関連するとはほとんど考え難いことを指し示していると明言した。

 同報告書はまた、DUの環境中の挙動について今回新たに判明した重要な事実として次の四点を挙げている。すなわち、@DUによる土壌汚染は低レベルであり、1〜2メートル以内の限られた範囲内に局在化しているA地表付近に埋まったDUは腐食により七年ほどで全体量の25%が急速に失われ、25〜35年で完全に腐食するB今回の調査記録はDUによる地下水汚染に関する最初のデータとなった。バルカン半島での前回調査は紛争終結後直ちに実施されたが、今回は終結後七年が経過しており、DUの土壌への浸透と地下水の汚染状況が判明。UNEPとしては汚染が判明した場合はほかの水源を利用すること、および、今後数年間は地下水のサンプリングと計測を継続するよう勧告するC大気汚染は2か所で発見された。汚染地区からのDU粒子が風や人の活動により流入したものと考えられるが、不必要な被曝を避けるためUNEPは予防措置として除染を勧告したい。

 なおUNEPのK・テプファー専務理事は、「警戒を要するというほどのことではないが、やはり予防措置として、特にDUの存在が確認された地区およびその周辺では土壌と飲料水の定期的な監視を続けるべきだろう」とコメントしている。


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