[原子力産業新聞] 2003年4月25日 第2183号 <5面>

[原産年次大会−セッション2] 原子力発電所の運転管理−新たな取組み

 続くセッション2は「原子力発電所の運転管理−−新たな取組み」がテーマ。近藤駿介東大院教授を議長に、パネリストとして金顕君・韓国原子力安全技術院(KINS)安全評価部長 、M・コミスキー・米国原子力エネルギー協会(NEI)渉外担当上席理事、佐々木宜彦・原子力安全保安院長、飛田恵理子・東京都地域婦人団体連盟生活環境部副部長、松村洋・関西電力取締役原子力事業本部副本部長が参加し討論した。

近藤議長 基調講演から 「国民の期待に応える原子力発電所の運転管理のあり方」

 一連の不正問題以来、事業者に対する不信は、リスク管理に係る判断の妥当性に疑念がもたれていることやリスク管理の仕組みの不透明感などがあり、地域社会の安心を追求する活動の充実が必要だ。地域社会お安心重視に経営者がコミットメントし、地域社会の安心重視の活動と、そのための要求事項を明確にする等の取り組みが求められる。

 国に関しては、不正問題以降、原子力安全委や保安院の活動には著しい改善があるが、現在の行政不信を前にすればなお改善すべきことがある。

 最善の科学技術的判断を厳格かつタイムリーに行える技術的能力を持つことや、国民の代理者として客観的かつ公正な判断をしていることがわかるようにすること、国民に説明する際に誠実で熱心であることなどの努力が引き続き充実されるべきだ。しかし独立性、公開性・誠実性を裏付けるには米仏などにみられるようにホームページ等を活用してきちんと規制をやっていることが普通の人から見えるような努力が必要だ。

 こうした意味で運転管理には、規制当局も事業者も、ともに創造性と誠実さとコミュニケーション能力を備え、リスク管理活動に適した人材の養成などが必要となる。

「信頼回復に不断の努力」 佐々木保安院院長 官民相互の対話が重要に 佐々木氏

 現状、社会一般からの信頼を損ねた状況にあり、行政としても信頼回復の不断の努力を積み重ねる以外にないと思っている。これまでに、ルールを明確にすること、ルール違反に対して厳格に罰則の強化を行った。規制側として今後の方向性については、まず規制合理性の根拠を明らかにすることがある。維持基準については、十月からスタートすることになる。前提として、検査員の資質等の環境整備も必要だが、まずレールにのせたい。規制のリスク管理という面で、日本でもデータをきちんと解析してリスク情報をもとにした規制の土台整備が必要と考える。基本的に安全確保は自主保安が基礎になるが国はそれをきちんと判断し、そのルールを確立しておくことが求められる。その意味で官民各々の責任がある。最も現場を知っている事業者は、あらゆる情報がある。事業者サイドもデータの蓄積と分析解析により、提案してもらうことが必要で、双方のコミュニケーションが大切だ。

 科学的・合理的な規制による安全確保には、情報の共有、そのシステムの構築が、安全確保にとって非常に重要だ。

 規制にとって社会との関係も重要であり、これまで法律を執行するという立場から規制側として、安全を技術的根拠で説明してきたが、安心につながる意味で説明責任、透明性の点でまだまだ努力すべき点がある。保安院の判断について自分の言葉で説明することが原点、方法論もいろんなやり方があるが、社会との関係では安心に結びつく説明は、日常の透明性ある活動を、誠実に積み上げていくことに尽きると考えている。

コミスキー氏

 米国では五年前に比べて構造改革など経て関連企業が統合したこと等により、パフォーマンスは改善され、規制の透明性向上もなされてきた。最近、米では原子力産業は進歩をとげており、経営基盤の部分を重視しつつ今後も原子力発電所は長期的なキャッシュフローを確保できると考えている。

 二〇〇二年の運転状況は良好で、百三基の原子力発電プラントは出力の増加など経済性を向上させており、キロワット時あたりの発電単価も一・六八セントとなっている。まだ下げ余地があり、マネジメント改善等を通じコストを下げていけると思う。

 昨年みつかったデービスベッセ原子力発電所の原子炉容器上蓋の応力腐食割れの問題については、材料面での技術的対応をはじめ広範な対応が進んでいる。原子力発電所の運転管理は優先順位を決めて、すべてもれのないよう網羅的にやっていくこと、実際に影響ないように前もってやるということが大切だ。上蓋の交換に関しても水平展開しても各社が必要な交換等の対応を予定している。

松村氏

 自由化の進展など状況変化の中でも将来にわたって、安全で信頼性の高い運転を維持し向上するようなシステムの構築が重要だ。そのためには定検の工程管理などコンピュータ活用による業務の体系化、効率化、状態監視保全等、新技術の導入、技術教育システムの強化が必要だ。事業者は今後新しい規制や制度を有効に活用し、安全で効率的な運転管理を行っていくことが今後の課題であり、発電所の運転状況に関するデータを公開し、これを分かりやすく説明していくことも課題だ。プラントデータのリアルタイム公開(HP上)など進めているが、説明の点で不十分な面がたあったことは反省点。そこで補修や品質のデータも電力中央研究所に共有データベースを作り、国民からも見える形にしてくことを考えている。

飛田氏

 消費者の立場からの話しをする。

 原子力に関しては、検査方法の見直しなども進んでいるが、いろんな立場のひとの多様な意見のなかから問題点を解決する姿勢が必要だ。人材の要請も含めてきちんとした体制を諸外国の好例にも学んで作ってもらいたい。情報公開も、たとえば、どのような検査をしてそれだけ精度が高まったか、その体制の面も含めて逐一公開すべきだ。安全確保についてはリスク分析を冷静にやる必要がある。。リスクを評価する方と管理される方が同じところに立っていると、どうしてもゆがめられることになる。明確に分けてもらいたい。

 事業者は、トップと現場が離れないように気をつけるべきだ。組織の問題として、意思疎通をうまくはかるべきでだ。モラルの低下からコンプライアンスが流行語になっているが、責任をとらない風潮も。規制庁も事業者も社会に目を向けて事にあたってほしい。


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