[原子力産業新聞] 2003年5月29日 第2187号 <3面>

[スイス] 国民投票、2つの脱原子力請願を否決

 スイス原子力産業会議(SVA)が18日に伝えたところによると、同日に行われた国民投票で脱原子力を求める2つの国民請願が否決された。これにより、将来の原子力利用にも可能性を残した新しい原子力法が公布される見通しとなり、産業界では国内の既存炉五基の運転継続は確実になったと見ている。

 請願のうち1つは、新規原子力発電所の建設凍結をさらに10年間延長すること、および稼動中の原子炉5基に新たな操業条件を課すことを求める「モラトリアム・プラス」。この請願について投票した国民48.9%のうち58.4%がこれを拒否する結果になった。もう1つは「原子力無き電力供給」で、既存原子炉を段階的に廃止していくほか、使用済み燃料の再処理を終了し、原子力以外の電源による電力供給現を求めるもの。これについては投票者の66.3%が「反対」の意志を表明した。

 州別に見ると、スイス国内で6つの準州を含む全26州のうち、唯一バーゼル・シュタット準州が請願の両方を受け入れる意志を示したほか、バーゼル・ラント準州は「モラトリアム・プラス」にのみ賛成。仏語圏の5州およびイタリア語圏の1州を含む残りの州はすべて、2つの脱原子力請願を否決している。

 原子力からの撤退を求める同種の請願については、89年、84年、90年に国民投票が実施されたが、いずれも否決されている。ただし、「新規炉の建設モラトリアム」は90年に可決。これが2000年に失効したことから、99年末に反原子力派が新たに発議していた凍結案について今回是非が問われた。

 スイスでは3月21日に連邦議会が新しい原子力法を可決しており、原子力施設の建設や操業に関しては連邦政府のみが許可を発給すること、再処理は2006年に既存の契約が終了した後10年間凍結する――などが規定されている。しかし新法は今回の脱原子力請願に対する連邦政府の対抗案と位置付けられていたため、発効については2つの請願が取り下げられるか国民投票で否決された場合のみと定められていた。

 また、新たな連邦法の発効にも任意の国民投票制度が適用されることから、新原子力法が公布後、国民投票にかけられる可能性も残っており、発効までにはなお曲折が予想される。


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