[原子力産業新聞] 2003年7月10日 第2193号 <3面>

[IAEA] パクシュ2号機燃料破損で報告

 4月10日にハンガリーのパクシュ原子力発電所2号機(46.8万キロワット、VVER)で、定検作業の燃料洗浄中に起きた燃料破損事故(左コラムに詳細)について、6月半ばから現地で調査していた国際原子力機関(IAEA)の専門家チームは、6月25日に調査を終え、設計・運転上の問題点や改善勧告等を盛り込んだ報告書草案をハンガリー原子力局(HAEA)に提出した。

 この調査団は、IAEA、オーストリア、カナダ、フィンランド、スロバキア、英国、米国からの専門家からなり、ハンガリー政府より、第三者的立場から事故原因および発電所と規制当局の行動を評価するよう求められ、IAEAが派遣したもの。

 IAEA調査団は、燃料洗浄タンクおよびシステムの設計・運転がIAEAの安全基準に則っていなかったとし、HAEAと発電所当局も、この新しい洗浄システムの安全評価を行う際、保守的な手法で行わなかったと結論づけた。また、このシステムの設計・運転を行っていたフラマトムANP社への過剰依存が見られるとし、定検中のスケジュールの圧迫に加え、以前行った燃料洗浄がうまくいったことから、運転停止直後に燃料を原子炉からタンクに移すといった新たな方法等への評価が十分行われなかったとしている。またHAEAも、この洗浄システムの設計・運転上の安全性を楽観視していたと述べている。さらに調査団は、この洗浄システムを運転していた人員が、十分な安全上の訓練を受けていない上、発電所当局の適切な監督を受けずに作業を行っていたと指摘した。

 放射線防護については、発電所当局が職員の被ばく量の適切なモニタリング・評価を行っていたとし、職員、公衆とも、許容限度以上の被ばくを受けた人はいないとしている。また情報の透明性についても、すべての情報と人員にアクセスでき、問題なしとした。

パクシュ事故の概要

 ハンガリー原子力局(HAEA)によると、この事故は、3月29日から定検中のパクシュ2号機で、4月10日、契約者のフラマトムANP社が、燃料集合体に付着した腐食物を化学的に除去している最中に起こった。燃料洗浄は、原子炉から燃料を取り出し、専用のタンク中で30体ずつ行われており、その前の5回・150体の洗浄では問題がなかった。6回目の洗浄は9日に始まり、翌10日深夜、放射線モニターが作動した。洗浄タンクのふたを開けようとしたものの、吊り紐が切れて半空きの状態になった。16日にふたが完全に開けられ、タンク内をビデオカメラで観察したところ、30体すべての集合体が破損し、幾つかの集合体はひどい破損を受け、ペレットがタンク底に落下していた。この事故は、IAEAの国際原子力事象評価尺度でレベルVとされた。

 この事故により、4月10日から26日までの17日間累計で、希ガスが414テラベクレル、ヨウ素が360.5ギガベクレル環境中に放出されたが、発電所周辺の9か所のモニタリングポストでは目立った線量の増加はなく、発電所周辺地表のT―131汚染も1平方メートルあたり数ベクレルから数百ベクレル(チェルノブイリ事故時の数千分の一)で、牛乳の汚染もなかった。


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