[原子力産業新聞] 2003年7月24日 第2195号 <4面>

[原産・レポート] 発電所保修での人材確保方策

日本原子力産業会議はこのほど、人材問題小委員会(委員長=鷲見禎彦・日本原子力発電社長)の報告書を発表した。同小委員会は、基盤強化委員会(委員長=荒木浩・東京電力顧問)のもとに設けられたもので、原子力発電所の保修に関わる人材の育成・強化のあり方と、将来の人材確保を目指した教育・訓練のあり方の2点について、それぞれワーキンググループを設置、検討を行ってきたもの。本紙では今号から2回にわたり、その概要を紹介するが、今号では原子力発電所保修に関わる人材の育成強化の方策、次号では将来の人材確保を目指した教育・訓練のあり方を紹介する。

検討の目的と方法

これまで築き上げた技術水準を維持し、原子力平和利用のさらなる発展を目指すためには、これらの人材の質と量の確保が大きな鍵となる。52基の原子力発電所をはじめ、各施設を今後とも安全安定的に維持するため保修に係る人材の確保・育成と効率的活用を十分に図る必要がある。

このため、@現状を分析し、諸課題を抽出Aこれに社会的信頼の回復など新たな社会的要請を加味B主要課題を絞り込み、さらに米国の原子力発電所の保修体制を調査、対応の方向性C原子力産業界全体として対応していく対策案、および電力会社、メーカー、工事会社ごとに対応していくべき対策案――をとりまとめた。さらに提言として今後各事業者が協調して方策を推進すべき事柄を示した。

保修体制の現状

原子力発電所の場合、運転保修および建設には、運転中1基あたり500〜800人程度、また定期検査時には1000〜1300人となっており、特にピーク時には2000人を超えている。

米国調査団の報告によれば、米国では1基当り運転中は約600〜700人で、ほとんどが電力社員であり、定期検査時で外注作業員も含み900人程度。定期検査時の急激な増加はないこと、その増加分も他発電所からの人的融通を受けるアライアンスや本店所属の保修部隊を活用して対応し、米国と日本では最大人数が1対2。

原子力発電の場合、初期段階から、保修作業がほとんど請負に出され、プラントメーカーを元請として、この下にメーカー系列の工事会社や独立工事会社があり、その傘下に地元企業を含む多くの企業が入って4〜5階層になっている場合が多い。この多層構造は、定期検査が一時に大量の作業者を必要とし、定期検査が終われば切り離すことで、多人数を常時抱えることを避けるシステムとなっていた。停止中の検査工事量と運転中の検査工事量は日本が7対3であるのに対し、米国は3対7である。

その後、電力やメーカーの関係会社が作られ、発注側が多層化するとともに、それにつらなる工事会社も次第に直接作業をしない管理業務が中心となっていった。また管理については電力と関係会社、場合によってはその下の工事会社との間で重複が見られる。一方、電力の保修部門の人数も大幅な減少はせず書類による管理、官庁や地元対応業務の増加に対応するようになっている。このように多くの人数により発電所の保修が行われているが、@運転中も相当数の人員が常駐A安全、品質、放射線管理などの運営管理で、電力、元請、1次下請がそれぞれ専門のスタッフの配置、重複している面もあるB出入り管理に相当な時間を要し実質1人当たりの作業時間が少なくなっている――なども、人数を大きくしている原因となっている。

米国調査によれば、@常駐作業者は原則電力社員であり、工事を定期検査期間中から運転中に移し年間を通じて作業があり、アライアンスで他発電所でも仕事をしているA直営のため管理スタッフが少数B定期検査中は12時間交替制であり、多能工化と専任の労働力管理スタッフにより作業者の実質労働時間は十分に確保――などがわかった。

最も数の多い下請工事会社の場合を例に見ると作業者は「棒心」をまとめ役として集められている。棒心は仕事の段取り、人の配置、作業指示を行う最前線の管理者であり、仕事の大事なところは自ら実施する役割を持っている。棒心の部下は多くても数人から10人程度である。多くの労働者を棒心という有能なリーダーのもとに人間関係を基礎として組織化していく優れた日本的システムが機能していた。我が国の保修体制は構造的に多層化していると同時に作業面でも多層化しているのが特徴。

米国では社員が直営作業をやる方式が多いため、補助作業を含め小人数で作業を行っている。


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