[原子力産業新聞] 2003年8月21日 第2198号 <3面>

[シリーズ] 龍門建設をめぐる動き(下)

 前号に引き続き、台湾の核能科技協進会執行長の謝牧謙氏(=写真)に、龍門原子力発電所に関する国民投票をめぐる状況とその背景を解説して頂く。

 「公投法」(国民投票法案)は、国民が国の重大政策について意思表示できる法的根拠。台湾の民主改革発展上、重要なマイルストーンでもある。但し、問題は国民投票の内容にある。目下、政府は国民投票について、「統独問題」(「統」は大陸との統一、「独」は台湾独立)は含まないと宣言。内容的には「龍門原子力発電所建設」、「WHO加盟」と「国会改革」を議題に、来年3月20日、総統選挙と同時に行われる。

 台湾産業界は、国民投票に反対しないが、既に法律的根拠のある龍門発電所(全予算は国会で審査済み、また政府から設置許可も取得済み)を国民投票にかけるのは意味がない、と述べている。野党(国民党、親民党)からは、背後の政治的意図が疑わしい、総統選挙の為だと批判されている。

 今年7月末に台湾を訪れた米国国務省退職の李潔明(James Lilley)氏は、かつて駐北京大使と駐台北代表を担当した中国通である。李氏は「龍門発電所」「WHO加盟」等国民投票の結果は事前に明らかで、その必要性に疑問があると指摘する。

 また龍門発電所建設について、行政院研考会が今年7月14、15日に行った意識調査では、建設継続賛成52%、反対24%、その他は意見なしとの結果が出ている。政府側では、国民投票法案が九月の国会審査を通らない場合、「諮問性公投」(法的制約がなく参考のみの国民投票)で行う構えである。陳総統は「国民投票」は国民主権の表現であり、議会政治に対する民主の補助と強化という立場をとっている。

 

 民進党は党綱領に、「原子力発電所の新設に反対し、代替エネルギーの開発を進め、既存の原子力発電所(6基)も早めに廃炉」を明記、目下、「非核家園推動法」(脱原子力推進法)を定め、法的根拠の土台を築こうとしている。

 同法は22の条文から成り、今年の5月7日行政院で制定、来る9月、「国民投票法」と一緒に立法院で審議される。行政院の制定版では、@核兵器を開発しないA既存原子力発電所を逐次廃炉B放射線安全の確保C放射性廃棄物を妥当に処置するDエネルギー政策の調整E再生エネルギーの開発──等を目標とし、本法公布の日から、原子力発電施設の許可を発行しないと明記している。また、毎年2月13日を「非核国家日」と定めるとしている。

 本法案が国会を通過すると、アジアで初の「非核国家」が発足する。また、「国民投票」の結果如何にかかわらず、龍門原子力発電所工事は続行するが、完成後、一時封鎖あるいは原子力発電所博物館にするとの説も出ている。 

 台湾の原子力論争は、エネルギーの世界だけで語れない。特に政治イデオロギー問題も絡み、一層内容を複雑化している。もともと原子力の賛否は選択の問題であり、是非の問題ではない。しかしながら、善悪、正義、道徳の問題までエスカレートし、焦点がぼかされ、無意味であり政治闘争の手段としか思えない。

 問題の解決は、国民の教養を高め良識ある人格を養い、人々が自らベストの選択と判断できることを願い、また政党としての自覚も期待したい。


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