[原子力産業新聞] 2003年8月28日 第2199号 <3面>

[米・NRC] 使用済み燃料湿式貯蔵の安全性強調

 米原子力規制委員会(NRC)は19日、ワシントンの大手シンクタンク「政策研究所(IPS)」が今年1月31日に発表した米国の原子力発電所における使用済み燃料管理の危険性を訴える論文について、「この調査には欠陥があり、勧告を裏付ける証拠がない」とする評価結果をまとめ、この評価を依頼したプライス下院議員に送付した。同論文は、運転中の原子力発電所の使用済み燃料プールで冷却している燃料のうち、保管期間5年を過ぎたものを乾式貯蔵所を新設し移すことなどを勧告していた。

 「米国で貯蔵されている発電用使用済み燃料からの危険性を低減する」と題されたこの論文は、IPS原子力政策プロジェクトのR・アルバレス部長他8名の連名で書かれたもので、プリンストン大学の「サイエンス・アンド・グローバル・セキュリティ」誌春季号に掲載された。

 同論文は、原子力発電所の使用済み燃料貯蔵プールをテロリスト等が攻撃したさいの影響を、NRCの研究等を引用しながら分析。米国の原子力発電所の使用済み燃料プールでは、リラッキングにより高密度ラックで使用済み燃料が貯蔵されていることから、冷却水が失われた場合、空冷では十分な冷却が行われず、被覆管のジルカロイが発火、燃料中のセシウム137などが放出され、「チェルノブイリ事故よりひどい長期の土壌汚染が引き起こされる」とのシナリオを描いている。このような事故の確率とその影響を減らすため同論文は、「保管期間5年以上の使用済み燃料は全て、乾式貯蔵に移す」よう勧告、さらに5年以内の燃料は燃料プールをオープン・ラック(=図)に改造し貯蔵するよう求めている。3万5000トン分の使用済み燃料用乾式キャスクを所内に設置するコストを「35億〜70億ドル」と見積もり、発電電力量(キロワット時)あたり0.03〜0.06セントとしている。

 この論文を評価したNRCは、同委員会が行った114の研究が不正確に引用されていることを指摘、また、使用済み燃料プールの冷却水喪失のシナリオが非現実的なこと、他の産業リスクとの比較が行われていないことなどから、「この研究には欠陥がある」と指摘。リスク評価とコスト・ベネフィット評価において、@プール損傷の最悪ケースの確率が説明されていないA放射性物質放出を過大評価B事故結果と社会的コストを過大評価C乾式貯蔵施設建設コストを過少評価――などと批判、同論文は非現実的なほど保守的に分析していると述べた。

 NRCは、使用済み燃料を取り出して乾式キャスクに貯蔵すべきとの勧告は「正当化されない」と結論、現在、湿式、乾式で貯蔵されている使用済み燃料は安全であり、公衆の健康を適切に保護する措置が採られていると結論付けている。


Copyright (C) 2003 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.