[原子力産業新聞] 2003年9月18日 第2202号 <4面> |
[原子力安全委] 02年版原子力安全白書、「東電問題」「もんじゅ判決」を特集本紙既報のとおり、原子力安全委員会は8月29日、2002年版の「原子力安全白書」を発表した。今年度の白書は東電問題と「もんじゅ」裁判について特集している。同白書の概要版から、2本の特集を中心にハイライトを紹介する。 「東電問題」安全委員会及び政府の対応平成14年10月29日、原子力安全委員会は昭和53年の発足以来初めて「原子力安全の信頼の回復に関する勧告」を、内閣総理大臣を通じて経済産業大臣に対して行いました。勧告では、「原子力安全の信頼回復に向け、直面する困難を早急に克服し、現状を打破することが喫緊の課題」との認識に立ち、「共通する根本的原因の除去と再発防止の観点から、関係法令の改正等あらゆる手段を尽くして、抜本的対策を講じることが必要である」ことを指摘しました。 具体的には、@国と事業者の責任分担の明確化、A運転段階の安全を重視した規制制度の整備、B情報公開と透明性の向上、の3点に関する対策を講ずることを指摘しました。 安全委員会は今回の一連の事案に対応し、「原子力発電施設安全性評価プロジェクトチーム」を設置し、必要な安全確認を行いました。具体的には、直接現地に赴き、事業者の検査内容について確認を行ったり、原子力安全委員会独自に解析を実施し、炉心シュラウドについては現時点及び5年後においても十分な構造強度を有するとした経済産業省による評価は妥当であることを確認しています。 事業者の責任の明確化と国による監視・監査の強化、原子力安全委員会によるダブルチェック体制強化などの措置が盛り込まれた、電気事業法及び原子炉等規制法の一部を改正する法律案及び独立行政法人原子力安全基盤機構法案が平成14年12月18日に公布されました。 @定期事業者検査の導入 事業者による自主点検を「定期事業者検査」として法制化し、原子力安全基盤機構が実施体制等を審査した上、さらに国が評定。 A健全性評価の義務付け ひび割れなどがあった場合、事業者は設備の健全性評価を行うことが電気事業法で義務付けられました。 安全委員会は、健全性評価に関し、4月24日に「技術基準の基本的考え方」を委員会決定しました。 B罰則の強化 組織的な不正を防止するため、法人に対する罰金の増額など、罰則が強化されました。 C原子力安全委員会によるダブルチェック機能の強化 原子力安全委員会によるダブルチェック機能が抜本的に強化されました。 規制枠組への新たな取り組み リスク・インフォームド型規制今般の不正等においては、運転段階での規制の重要性が増してきていることが改めて浮き彫りになりました。運転段階での規制を客観的、合理的に行うには、安全上の重要度や異常事象発生の頻度、影響などのリスク情報に基づいて、設備の安全機能が維持されるべき範囲を的確に把握し、それに基づいて、検査の対象や方法等を定める規制の仕組みとして、我が国における新たな「リスク・インフォームド型規制」の導入を検討することが重要であり、原子力安全委員会においてはその基本的考え方について検討を進めています。(右下コラム参照) 「もんじゅ」判決について平成15年1月27日、名古屋高等裁判所金沢支部は、内閣総理大臣が昭和58年に行った高速増殖原型炉「もんじゅ」の原子炉設置許可処分が無効であるとの被告人行政庁側敗訴の判決を下しました。 控訴審においては、法律的な争点のほかに、@核燃料サイクル開発機構の技術的能力A「立地条件及び耐震設計」B「二次冷却材漏えい事故の評価」C「蒸気発生器伝熱管破損事故の評価」D「炉心崩壊事故の評価」――の5つの技術的な争点がありました。 判決では、「二次冷却材漏えい事故」、「蒸気発生器伝熱管破損事故」、「炉心崩壊事故」の3つの争点については安全審査の過程に看過し難い過誤、欠落があり、原子炉施設許可処分は無効と判断されました。 安全委の見解二次冷却材漏洩事故 ○炉心冷却能力の解析 炉心冷却能力の解析の結果、炉心のナトリウムは沸点にまで至らず、燃料被覆管の最高温度も制限値に対して十分な余裕があり、燃料最高温度も事故発生前とほとんど変わらない等、炉心の損傷を招くことなく安全のうちに事故は終息できると確認されています。 ○漏えいナトリウムによる熱的影響の解析 漏えいナトリウムの昇温による内圧上昇は部屋の耐圧よりも低く抑えることができ、貯留後においては、建物コンクリートの健全性が損なわれないようにできることを確認しています。 蒸気発生器伝熱管破損事故 ○SG伝熱管破損事故に対する安全設計と評価 ナトリウム・水反応現象による圧力発生に対して、蒸気発生器、二次冷却系設備及び中間熱交換器の健全性は維持され、一次冷却系の設備機器に影響を与えることはなく、炉心を「冷やす」機能が確保されることを確認しています。 ○同事故における単一故障 「蒸気発生器伝熱管破損事故」の場合には、事故時の作動が要求される水漏えいの検知装置や伝熱管内部の水・蒸気を抜くための装置は、原子炉安全において要求される3つの基本的安全機能「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」に直接関係しないことから、「単一故障」の仮定を適用する必要はないものです。 ○高温ラプチャ型のSG伝熱管破損 実験的事実に照らして考えると、最初から高温ラプチャに至るほどの規模の漏えいが発生することは想定しがたく、多くの場合、微小漏えいから徐々に規模が拡大し、高温ラプチャを発生させる可能性のある規模にまで時間をかけて拡大していくと考えられ、微小漏えいを検出するナトリウム中水素計は高温ラプチャ発生の防止に有効です。 炉心崩壊事故 炉心崩壊事故が起こるためには、外部電源が失われるというような初期異常に加えて、信頼性の高い安全装置の多重故障が発生することを想定しなければなりません。これらがすべて同時に発生する可能性は極めて低く、したがって当時の安全審査において、これを「技術的には起こるとは考えられない事象」と判断したことは現在でも妥当なものであると考えています。 炉心崩壊事故は5項事象の1つとして、安全審査において、その評価結果が検討され、「放射性物質の放散が適切に抑制されること」の結果を得ており、この結果安全上問題ないことを確認しています。 この結果からみても、「もんじゅ」の安全審査が、当時の専門的知見に基づく工学的判断によって、安全評価における保守性を適切に見込んでおり、「もんじゅ」の安全性は十分に確認されていたことを示しています。 リスク・インフォームド型規制とは 米国が最初に取り入れ本格的に運用 リスク・インフォームド型規制を現在本格的に取り入れているのは、米国です。規制当局である米国原子力規制委員会(NRC)は、原子力施設の安全規制に「確率論的リスク評価(PRA)」を取り入れる基本方針を1995年に政策声明書で公表しました。これを契機にリスク・インフォームド型規制の導入が開始されました。この背景には、@長年の研究開発を通じて、確率論的リスク評価手法が進展してきたことA施設内のリスクが相対的に大きな分野に、規制上の資源(人員、予算など)を重点的に配分することを通じて、安全性の向上が図られることがあります。その際、従来からの深層防護の基本原則は維持され、それを補強するようにリスク情報を使用する配慮がなされました。 具体的には、原子力発電施設を対象として、1998年に設備認可変更申請、供用期間中試験、供用期間中検査、保安規定などの諸規制ガイダンスに、リスク情報を反映した対象設備、試験・検査項目、その適合性判断基準などが順次取り入れられました。さらに同年。情報に基づくプラントの安全運転実績指標(PI=パフォーマンス・インディケータ)を定めて、それを規制活動に反映する施設検査プログラムなどを定め、従来の基準適合型方式から新たな監視型方式の規制への移行が開始されました。この新たな方式は「Risk−Informed Performance−Based(リスク情報を取り入れた運転実績に基づく)」規制と呼ばれ、試行期間を経た後、2000年から本格的に運用されています。 欧州ではいくつかの国で進行欧州各国のうち、スウェーデン、スイス及びスペインが、リスク情報を反映した供用期間中検査、保安検査などに取り組んでおり、リスク・インフォームド型規制に向かっています。イギリス、フランス、ドイツ、ベルギー及びオランダでは、確率論的安全評価をシビアアクシデント対策の検討などに利用してきていますが、今のところ、その限りにとどまっているようです。 「東電問題」何が起きたのか シュラウドのひび割れ等に関する自主点検の不正○東京電力の自主点検の不正に関し、経済産業省と東京電力が公表した内容は、1980年代後半から90年代にかけて東京電力が実施した自主点検の際に、福島第一、福島第二、柏崎刈羽の3発電所、13基の原子炉の炉心シュラウド等のひび割れの存在を隠したり、検査記録を改ざんしたりしていた疑いがある案件が29件あり、調査中であるというものでした。10月にまとめた調査結果の中間報告によると、29件のうち16件の9基に問蓮があることが明らかになりました。 @東電が技術基準適合義務等を遵守していなかった可能性のある事案(6件) A東電が通達等に基づく国への報告を怠ったり、事実に反する報告を行ったりした可能性のある事案(5件) B事業者の自主保安のあり方として不適切な事案(5件) 国は、申告制度も原子力施設の安全維持のための1つの重要な手段として位置付け、また、原子力安全に対して国民からの信頼を得ていくために、法令改正等の制度運用の改善を行いました。 ○東京電力の不正等が明らかになったことを受けて、他の電力会社でも自主的な点検等を行いました。その結果、東北電力、中部電力の原子力発電所において、炉心シュラウドのひび割れやその兆候が発見されました。 原子炉再循環系配管のひび割れ○東北、東京、中部各電力会社は、合計11基の原子炉において、原子炉再循環系配管にひび割れやその兆候の疑いがあることを経済産業省に報告しました。 ○原子炉再循環系配管のひび割れは、東北電力、東京電力及び中部電力の合計11基のいずれも配管内面の溶接部近傍で発生しているものでした。 ひび割れに対し超音波探傷検査を実施したところ、測定結果とサンプル調査結果に比較的大きな差異が生じていたものがありました。このような差異が生じた原因は、主としてひび割れが溶接金属に向かって進展、場合によっては溶接金属内部まで進展していたためと考えられます。 原子炉格納容器漏えい率の不正操作○東京電力は福島第一原子力発電所1号機の第15回及び第16回定期検査における原子炉格納容器の漏えい率検査に際し、同社は圧縮空気の原子炉格納容器内への注入など不正な操作を行いました。 原子炉格納容器は、原子力発電所の安全確保上極めて重要な機器であるにも拘わらず、その気密性を確認する検査において、漏えい率の測定値を欺くために操作した行為は、技術者倫理にもとるだけでなく極めて重大で法律違反に該当するものであり、同炉は1年間の運転停止処分を受けました。 また、福島第一原子力発電所1号機以外には不正行為と考え得る事案は認められませんでした。 |