[原子力産業新聞] 2003年9月25日 第2203号 <2面>

[福井県] もんじゅ安全性調査検討委、報告書案の概要

 既報。福井県の「もんじゅ安全性調査検討委員会」は16日、報告書案「県民意見を踏まえた高速増殖原型炉もんじゅ全体の安全性について」を取りまとめた。今号ではその概要を、「まとめ」を中心に紹介する。


1 もんじゅ安全性調査検討専門委員会の概要

1−1委員会設置と運営

(略)

1−2「もんじゅ」全体の安全性に対する県民意見

(1)県民意見の募集と「県民の意見を聴く会」の開催

(略)

(2)県民意見の概要

(略)

(3)委員会の審議の方針

 委員会では、改造工事後の「もんじゅ」全体の安全性に対する県民意見について、科学技術的な視点からできるだけ議論を深めるため、安全性に係る技術的な課題を重点的に審議することとした。

1−3委員会の審議概要

(略)

2 主な県民意見と委員会での審議結果

2−1「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故

(略)

2−2ナトリウム漏洩対策

(1)主な県民意見

@漏えいナトリウムの影響

  • 事故と再現実験では違う結果が出ている→ナトリウムの基礎研究が十分でなかったのではないか
  • ナトリウム火災の可能性を過小評価していた
  • 床ライナの腐食について、設置許可当時、知見がないのは不思議である

A改造工事の意義

  • 事故が起こることを前提とした改造工事では心配が大きくなる
  • ナトリウムをきちんと封じ込めることが大事である

(2)委員会での審議結果

@漏えいナトリウムの影響

(委員会の意見)

(略)

@改造工事の意義

(委員会の意見)

(略)

2−3温度計の破損と交換

(略)

2−4高速増殖炉の安全性

(1) 主な県民意見

@高速増殖炉の安全性

  • 直ちに運転を停止しなかった
  • 「もんじゅ」は未成熟な技術であり安全性はまだ確立していない
  • 軽水炉と異なる点を中心に安全性を議論すべき
  • 海外も技術的に未確立で、経済的にも見通しが立たず撤退した
  • 研究開発炉として運転することは危険きわまりない

Aナトリウムの安全性

  • ナトリウムを使うことが最大のネックである
  • 一次系ナトリウムは放射化しており、ここで事故が起これば補修に相当な時間がかかるなど困難性は明らかである

Bプルトニウム

  • プルトニウムを使うところに一抹の不安がある。
  • ウランと比べどの程度厳しい取扱いや管理が要求さるのか
  • 核物質防護は万全か

C燃料

  • 燃料の安全性を再検討すべき
  • 燃料破損の備えが英国・仏国方式であるか確認すべき
  • 独国では破損燃料への備えが不備で廃炉に至ったのではないか
  • 燃料検査が目視でできない

D制御棒

  • 炉の停止が制御棒のみである
  • 制御棒がナトリウムの固化により動作不良となったのは想定外

E原子炉の安全性

  • 炉心内側は反応度が正である
  • ナトリウムは沸騰しないと仮定しているが、気泡が炉心を通過した時の出力上昇に非常に不安を感じる

F炉心崩壊事故評価

  • 炉心崩壊事故を起こす危険性が軽水炉と比べ格段に高い
  • 米国や独国を超える安全解析をしていない

(2) 委員会での審議結果

@高速増殖炉の安全性

 高速増殖炉も軽水炉と同様、出力が上昇すると燃えにくいウラン238 が中性子を吸収し、自然に出力が低下する特性(固有の安全性)を持っている。

(委員会の意見)

(略)

Aナトリウムの安全性

(委員会の意見)

(略)

Bプルトニウム

(委員会の意見)

(略)

C燃料

 燃料集合体で破損が発生すると、燃料被覆管から放射性ガスがナトリウム中に漏れ出ることから、このガスをいち早く検知する方法(カバーガス法)と、核燃料物質の一部がナトリウム中に漏れ出たことを検知する方法(遅発中性子法)とがある。

 さらに、炉心燃料の被覆管内にはあらかじめ組成の異なるガスを封入しており、漏れ出るこのガスを分析し、破損している燃料をできるだけ早く同定する方法(タギング法)も採用している。

 この「もんじゅ」の破損燃料検査方法は、仏国のフェニックスで行われている方式とは異なるが、「もんじゅ」では原子炉運転中でも、百九十八体の燃料集合体のどの燃料集合体が破損したかを同定できるように設計されている。

(委員会の意見)

(略)

D制御棒

 原子炉内での核分裂を制御し、停止させる役割は制御棒が担っている。特に原子炉を停止する機能については、通常停止用の制御棒(十三本)とは別に、バックアップ停止用の制御棒(六本)を設置し多重化している。

 また、制御棒は電磁石で保持されており、電源が喪失した場合には、電磁石は磁力を失うため、制御棒は自重で落下するとともに、ガス圧やスプリング力により加速され炉心内に挿入される。

 通常停止用の制御棒について、駆動荷重が増加する事象が平成四年から平成七年にかけて発生したが、その原因は、ナトリウムを初期充填した時の配管内等に付着していた不純物が、制御棒駆動機構の狭隘部に移行したためと推定されている。対策として、制御棒駆動機構のナトリウム接液部にナトリウムの流動孔を設け、ナトリウム不純物の滞留を防止するとともに、狭隘部を広げることとしている。

(委員会の意見)

(略)

E原子炉の安全性

 原子炉の特性として、「もんじゅ」も軽水炉と同様に固有の安全性を持っているが、原子炉の炉心内を大気泡が通過すると、一時的に正の反応度が加わって核分裂反応が急激に増加することが分かっている。

 冷却材中に気泡が通過することがありえるとすれば、ナトリウムの上部にあるカバーガスの巻き込みによるものであるので、機器の設計にあたっては、カバーガスがナトリウム中に巻き込まれないように考慮されている。

 「もんじゅ」を設置する際に行った国の安全審査では、このような設計上の考慮を無視し、気泡が炉心を通過した場合に、どの程度出力が急上昇するかについて解析・評価をしている。

その結果、「もんじゅ」は出力の上昇を直ちに検出して、自動的に原子炉を緊急停止するので、核分裂の増加による発生エネルギー分は小さく原子炉の安全性が確保されることが確認されている。

F炉心崩壊事故評価

 炉心崩壊事故評価にあたっては、何らかの理由で「もんじゅ」の一次系、二次系の独立した三系統のナトリウムを循環させるポンプ(主循環ポンプ)全数が完全に停止し、かつ、その状態で全ての制御棒が挿入されないという仮想的な条件を前提とする必要がある。

 この仮想条件を発端として、敢えて炉心燃料に損傷が及ぶ事態に進むと仮定すると、炉心にある燃料棒は大きな損傷を受けるが、原子炉容器、原子炉格納容器は、十分に頑丈にできているため、破損しない。したがって、放射能が周辺に異常に放出されることはなく、周辺住民の安全が脅かされることはない。

 炉心崩壊事故評価については、ドイツ、アメリカ、日本などの国際協力の中で、解析コードや得られた知見等の情報が共有されている。また、炉心崩壊事故を仮定して発生するエネルギーは、炉心の出力の大きさにおおよそ比例するため、諸外国の計算例と比較して特に大きな矛盾はない。

(委員会の意見)

(略)

2−5〜2−9

(略)


3 まとめ

3−1委員会の意見

@「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故

  • 品質保証体制や保守点検体制、通報連絡体制など、人の係わる分野については特に重視し、安全性や信頼性の向上に努めていくこと
  • 今後、試運転の経験等を十分踏まえ、発電設備を有する原型炉として運転対応の向上や保守性向上に向けて、更に改善を進めること
  • 「もんじゅ」で働く職員の資質向上のため、様々な教育・訓練を継続して進めていくこと
  • 平常時より積極的な情報の公開に努めること
  • 異常や事故時における対応を強化するため、通報連絡責任者の職務内容やその活用方策を十分に検討すること

Aナトリウム漏えい対策

  • 設備改造後のナトリウム漏えい時の運転手順について、想定される漏えいが全てカバーされているかなどを対応訓練などを通じて確認すること
  • 緊急ドレンに伴うタンク等の健全性評価(熱衝撃に対する健全性評価)について、緊急ドレンを行った場合には、実機での運転履歴を踏まえて、適宜、再評価を行うこと
  • 改造工事計画について、その改善効果を総合的に確認する方策を将来的な視点も含め検討すること

B温度計の破損と交換

  • 新方式の温度計開発にも努力すること
  • 国の審査対象外の装置や機器についても、品質保証とその健全性を十分確認すること
  • 品質管理の向上に向け、全員参加で安全を重視する体制を構築すること
  • 設計、施工上の抜け落ちがないようシステムとしてフォローアップしていくこと

C高速増殖炉の安全性

  • ナトリウム機器の分解点検や改善工事にあたっては、徹底した品質管理はもとより、工事の安全管理として、「常陽」で発生した火災や海外炉での改造工事における教訓を適切に反映して、万全の体制で実施すること
  • 性能試験再開にあたっては、制御棒の反応度価値をはじめ、各機器の性能や機能が設計を満足しているかどうか、十分確認すること
  • 異常時や事故時の運転対応においては、最新の知見やソフトウェア技術等を導入して、ヒューマンエラーの防止を図るとともに、手順書の整備と徹底した教育訓練により、運転管理に万全を期すこと
  • 燃料や燃料被覆管の健全性を保つため、製造時の品質管理を万全に行うとともに、万一、破損が生じたときに、できるだけ短時間で破損燃料を同定できるよう、タギングガスの分析法の研究開発を進めること
  • 制御棒の長寿命化について研究開発を進めること
  • 高速増殖炉にかかる安全性研究は、今後とも継続して進め、これらの研究成果として、新たな知見が得られた場合は、必要に応じて解析評価手法や評価結果の見直しを行い、安全性や安全裕度の再確認に努めること
  • 機器の信頼性を高め、運転での安全管理、リスク管理の向上に努めるため継続的に研究を進めるとともに、その結果は積極的に公開していくこと

D蒸気発生器の安全性

  • ナトリウム・水反応の研究成果を踏まえさらに推進し、伝熱管破損時の対応について改善を進めること
  • 伝熱管漏えい後の補修方法等の対応措置について、できるだけ長期間のプラント停止を避けるため、事前検討を十分行うこと
  • 蒸気発生器内でのナトリウム・水反応に関する研究成果については、学会等のレビューを受けるなど、情報の公開と客観性の確保に努めていくこと

E蒸気発生器の検査装置

  • 蒸気発生器製作時の品質管理や構造的特徴を十分配慮すること
  • 伝熱管の耐圧漏えい検査や渦流探傷検査の位置付けを明確にするとともに、欠陥検出の精度向上に向け、今後とも開発に努めること

F放射線管理

(略)

G耐震安全性について

(略)

H第三者委員会の必要性について

  • 予期しない異常や事故時には、その内容について公開の場で科学技術的な面から審議し、速やかにその審議結果を報告する第三者委員会を設置すること
  • 改善計画について、第三者委員会が常に確認していくことが必要である

3−2結論

 

 本委員会では、「もんじゅ」全体の安全性について、県民の疑問や不安などの意見を聞き、技術的な課題について、国やサイクル機構、さらには学識経験者から説明を受け、慎重に審議を進めた。

 「もんじゅ」全体の安全性について、科学技術的にあらゆる角度から慎重に調査・検討を重ねた結果、「もんじゅ」は多重の安全防護により十分な安全裕度を持つように設計されている。さらに、サイクル機構が計画している2次主冷却系温度計の交換やナトリウム漏えいに対する改善、蒸気発生器安全性能の改善などの改造工事によって、「もんじゅ」の安全性は一段と向上する。したがって、改造工事を行った「もんじゅ」は、工学的に十分な安全性を持つ設備であると判断する。

 「工学的に安全性を持つ」とは、周辺の環境に深刻な影響を与える可能性を考えなくてもよいということであり、今後全く異常や事故が起こらないということではない。仮に、思わぬ異常が発生したとしても、その発生を早期に検出して原子炉を確実に停止するなど、異常が事故に至ることを防止できる。また、万一、事故に至ったとしても、安全・確実に収束できる設備であると本委員会は判断する。

 思わぬ異常や事故をできる限り起こさないために、品質保証体制や保守点検体制、通報連絡体制の確立など安全確保に向けたさらなる取り組みが必要であり、安全性の向上を目指した多角的な研究をサイクル機構と国は継続していく必要がある。

 また、仮に異常や事故が起こったとしても、住民に無用な不安を与えないための情報公開と通報連絡体制の充実に、引き続き取り組むことが重要である。

 「もんじゅ」は、現在、性能試験の段階であり、本格運転開始までに確認すべき事項が多く残っている。今後、改造工事を実施した後、まず、「もんじゅ」の性能や機能を性能試験段階で確実に把握し、設計で考慮した性能や機能が満足されていることを十分確認する必要がある。

 また、前項での「委員会の意見」も踏まえたハード面、ソフト面での対応を確実に図り、研究開発を推進する一方で「安全文化」の定着に継続的に取り組む必要がある。

 このように、設備の安全性、信頼性向上に向けた更なる改善に努めるとともに、我が国が独自に開発した発電設備を有する高速増殖原型炉プラントとして、安全に運転実績を積み重ねていくことで初めて、住民の信頼を得ることができることを肝に銘じる必要がある。


Copyright (C) 2003 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.