[原子力産業新聞] 2003年10月2日 第2204号 <2面>

[原子力安全委] リスク情報用いた規制で方針

 原子力安全委員会は25日、「リスク情報を活用した原子力安全規制の導入の基本方針について」を発表、今後、確率論的安全評価を用いたリスク情報を我が国の安全規制に取り入れていく上での基本的な考え方を示した。同委は26日、この「基本方針」をパブリックコメントに付している。

 「基本方針」で示された考え方は、従来からの多重防護の考え方は踏襲しつつ、従来の決定論的評価を、定量的・確率論的評価によって得られるリスク情報により「補完」、規制を進化させようというもの。対象施設は、運転経験で確率論的安全評価技術が豊富な運転段階にある発電用軽水炉とし、安全目標が中間取りまとめ段階で最終的に固まっていないことから、段階的に導入する。当面はたとえば、系統・機器の保守・検査のさい、その重要度をリスクへの相対的な寄与度を考慮するなどが考えられる。将来的には、安全目標を用いて、設計・建設段階も含めた安全確保体制全体に、リスク情報を活用した規制の体系的な導入を検討するとしている。

 また、米国のようなパフォーマンスベース規制の導入も「事業者の自主的取組みを促す観点からも有効」とし、並行して検討するとしている。

 安全委員会はリスク情報活用の意義として、@安全規制の合理性・整合性・透明性の向上A安全規制活動のための資源の適正配分――の2つを挙げる。@は、安全規制での意志決定でリスク情報を明示的に取り扱うことで、「判断根拠の客観性を向上させ、国民にとってより分かり易く透明性の高いものにできる」との考え。Aは、規制機関の資源を適正に配分し、効果・効率を高めようというもの。

 米国における「リスク情報を活用した、パフォーマンスに基づく規制」の基本的な考え方は、原子力事業者と規制当局の限られた人的・資金的資源を、安全上最も重要な事項に集中することにより、安全性を向上させようというもの。

 今回の「基本方針」は、原子力発電所安全運転の「第一当事者」である事業者の資源集中の考え方がすっぽり抜け落ちた、片手落ちのものだ。安全委事務局は「昨今の原子力に対する厳しい見方」から、規制緩和とも取られかねない事業者の資源集中の考えを入れなかったと説明するが、そもそも「リスク情報を取り入れた規制」は、客観的な数値基準の採用により、規制当局の恣意的な判断を排除しようというもの。「厳しい見方に対する配慮」とは基本的な立場が異なる。その意味で「基本方針」は安全委にとって「踏み絵」とも言える。 (喜多記者)


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