[原子力産業新聞] 2003年10月30日 第2208号 <10面>

[原研] 浮世絵の年代測定にX線利用

 日本原子力研究所は、このほど、浮世絵の青色着色料が、植物系の藍から輸入人造顔料のプルシャンブルーに代わった時期は、天保元年(1830年)後半であることを、蛍光X線分析により明らかにした。

 1830年代の北斎や広重の浮世絵では、青色着色料として、植物由来の染料の藍に代わって、輸入人造顔料のプルシャンブルーが使用され、これにより鮮明な薄青色や澄明な濃紺色を表現でき、浮世絵史上に新たな風景画ジャンルが確立したが、この導入時期については、明らかになっていなかった。

 吉備国際大学の下山進教授は礫川浮世絵美術館の松井英男館長と共同で、原研の平成14年度黎明研究制度で、藍とプルシャンブルーに対して、可視光領域の分光反射スペクトルと、RI蛍光X線分析による蛍光X線スペクトルを比較。さらに、制作年の明らかな役者絵を中心に百数十点の浮世絵で同様の測定を行い、比較の結果、浮世絵の青色着色料には天保元年(1830年)の前半まで藍が用いられ、同年後半から、プルシャンブルーが用いられたことを明らかにした。写真の歌川国芳作「五郎時宗 市川団十郎」の青色着色部では、藍でなくプルシャンブルーが使われている最古の作品であることからプルシャンブルーへの移行期は天保元年(1830年)の後半と推定された。


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