[原子力産業新聞] 2003年11月13日 第2210号 <4面>

[原産、エネ総研] 人材問題で報告会開催

 エネルギー総合工学研究所と日本原子力産業会議は10日、東京・築地の国立がんセンター・国際会議場で、「原子力技術の維持・継承を考える―将来の発展を確かにするために」と題する合同報告会を開催、約200名の聴衆を集めた。この報告会は、原子力の将来を担う人材の確保や技術の伝承が原子力界の大きな問題として浮上する現在、人材問題の分野でそれぞれ活動を行ってきたエネ総研と原産が協力し、将来の魅力ある産業分野として再び甦るために、技術や人材の面でどのように取り組んでいくべきか考えていくため開催されたもの。

 報告会では始めに、エネ総研の稲葉裕俊専務理事(=写真)が、エネルギー基本法で原子力が「基幹電源」と位置付けられているものの、原子力事業は厳しい状況にあると概観。国民からの不信感に加え、電力自由化で電気事業者は新規事業が困難になる懸念があるとし、さらに、技術者の減少・高齢化、大学の原子力工学科の弱体化などで、人材問題が浮上していると述べ、「複雑にかみ合っている問題を解きほぐしたい」と挨拶した。

 原産の宅間正夫専務理事は、「魅力ある原子力産業への方向と課題」と題して基調講演を行い、人口100億に達する将来の世界では、地球資源や空気の利用を巡る争奪戦が起こると予測。こうした時代背景のなかで原子力が、「技術者・専門家が消費者を引っ張る」20世紀的生産者論理を越え、「哲学と市民の時代」である21世紀において、信頼、安心、共生などを支えるよう求められていると述べた。また、「ものづかい・ものそだて」の21世紀では、原子力発電においても、新規建設から、既存の原子力発電所を徹底的に性能向上させ使う方向に考えを変えることが重要だとし、電力自由化を原子力にとっての「機会」ととらえて、企業家精神を発揮すべきだと述べた。

 同氏はまた、新時代においては、大型設備ではなく「身の丈」で分散型電源に向く中小型原子炉・固有安全炉などが重要と強調。加えてこれまでの軽水炉中心の原子力開発では、産官学が原子力を発電利用に「囲い込んだ」と反省、水素製造も含むより広い利用に向けて「多様なニーズを作り出す原子力」の必要性を訴えた。

 続いて電力中央研究所上席研究員の鈴木達治郎氏が、電気事業連合会の委託で電中研とエネ総研が行った「原子力技術の維持・継承戦略」について説明。米国と欧州でのヒアリングを踏まえ、日本の電力会社にとって、重要技術力(コア・コンピタンス)を確保することが安全と競争力の確保にとって重要であり、「学習する組織」の確立を通じ、技術力の維持・継承を自由化対応の一環としてとらえるべきだと総括。日本の電力会社は、@人材資源長期戦略を直ちに構築すべきA設計基礎知識を確保し自主判断能力を高めるべきB競争と協調により産業界の共通課題へ取り組むべき――など提言した。

 このあと、日本原子力発電の北村理事と核燃料サイクル開発機構の森東京事務所長より、原産の基盤強化委員会人材問題小委員会のもとで行われた人材問題に関する検討結果を発表(本紙7月24、31日号各4面参照)、また、鈴木氏を座長としたパネル・ディスカッションも開かれた。


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