[原子力産業新聞] 2003年12月18日 第2215号 <6面>

[シリーズ] ニッポンの町工場街を歩くC 岩井製作所(大田区)(2)

 岩井製作所がステンレスパイプの持つ応力によって旋削時に歪みが発生するという問題を克服できたのは、ステンレスパイプの精密な旋削製品を以前から手がけ、その難しさを熟知していたことによる。「ステンレスパイプの場合、材料を回転させて旋削すると、応力による歪みを引きずりながら進むことになり、仕上がってみると全体としてバラツキが大きくなる」という。このため、材料は固定し、旋削刃が回転する方法で作業する。

 この製品の精度とともに、岩井社長を悩ましたのは、旋削にミスが許されなかったこと。「手がけ始めた頃、ステンレスのパイプ材は国産品が無く、その供給はスウェーデンのサンドビック社に限られていた。当初はパイプ材の値段が1本28万5000円で、旋削加工賃が1本1万5000円。1本の旋削ミスで20本近くの加工賃が吹っ飛ぶ。材料代が高いためミス出来ない」。このプレッシャーのため、「旋削刃がパイプを異常に削ってしまう夢を何回か見た。実際の作業では旋削刃とパイプの触れるところは見えないが、どういう訳か夢ではいつも触れるところが見えた」という。

 これまでに岩井社長が加工した制御用シリンダーは1000本を超えた。「1本の作業ミスも無く、不良品も出していない。高価な材料を使うこの製品の旋削は従業員に任せず、全て自分で作業した」という。同社とともに、このシリンダーを製作していたもう1社は、パイプ材を回転させる方法で作業したこともあり、「多少の不良品が発生して加工賃が確保できず、暫くしてこの生産から手を引いた。その後、工場も閉めることになった」という。

 岩井製作所には、より大型の制御用シリンダーの製作依頼があり、サンプル品の製品認定も受けたが、「コストに見合うだけの利益が得られないため、結局、大型製品は受けなかった」という。「新幹線用の揺れ制御用シリンダーも同様だが、原子炉向けは注文から注文までの期間があまりに長いのが難点。我々としてはある程度継続した仕事が有り難い」。

 岩井社長にはこのところ、マスコミ関係の取材が多い。サッカーのワールドカップの際には、フランスとイタリアの雑誌記者が日本の物作りの取材に来社。最近、日本経済新聞社が出版した「ガイアの夜明け」では表紙になった。

(高橋毅記者)


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