[原子力産業新聞] 2004年1月6日 第2216号 <2面> |
[原子力ルネッサンス] 実現へ歩を進めるとき日本の経済状況はここ半年、久しぶりに薄日のさす状況となり、株式市場等もある程度回復、今年初め頃の総悲観論は陰をひそめた。しかし長期的な設備投資産業である電力業界と原子力産業界は、2005年4月の電力小売り自由化拡大や、少子高齢化の進行などによる将来の需要伸び悩みの予測から、投資抑制の態度を変えていない。 原子力委員会では今年、近藤駿介・新委員長のもと、4年ぶりに原子力開発利用長期計画の改定に向けた議論が始まる。強力なリーダーシップにより、電力市場の自由化を踏まえた原子力政策やバックエンド政策のあり方、プルトニウム利用政策、さらには基本的な問題である官と民の役割分担、国と地方自治体の責任・権限の明確化など、山積する問題に取り組んでほしい。この議論が、民間での取組みとの相乗効果により、日本における「原子力ルネッサンス」として結実することを望む。 原子力発電および核燃料サイクル政策について日本では、政府が政策を立案するものの、その実施は民間企業である電力会社等に委ねられる方法が長らく取られていた。これは電力会社が、地域独占と総括原価主義のもとで経済的に保護され、電力需要が右肩上がりの経営環境であったからこそ可能であったとも言えよう。電力自由化とともにこのような環境は過去のものとなりつつあり、原子力政策の実施方法は見直す必要があろう。電力会社などの民間会社の事業活動が、国の政策に沿っていることは望ましいことだ。しかし民間企業の基本的な使命は、株主の負託に応えて企業価値を最大化することであり、これを踏まえながら、公益事業としてどのように政策的課題に取り組んでいくか、官民の協調と分担が問われている。このような意味で政府は今後、政策実現の方法を見直し、政策立案のさい、民間に協力を求められるものか、国のリソースを使って実現すべきものかを見極め、民間に政策実現を期待する際は、経済的誘導策(インセンティブ)を用いるよう方向転換を求めたい。 国と地方との関係の明確化を長引く不況により地方経済が疲弊し、地方自治体の財政難が表面化する中、政府と地方自治体との関係が、これまでにも増して難しくなっている。都市部と農村部との経済格差、限られた資金もこれに拍車をかける。 自治体の課税自主権が拡大された結果、原子力関係では核燃料、使用済み燃料、放射性廃棄物などに対する地方課税が強化されつつある。しかし、いくつかの原子力発電所立地地域においては、これらの税金は、公共サービスの税負担を他地域の住民に転嫁する「租税輸出」となる。租税輸出は、「公共サービスの便益を受ける住民がその費用を負担」する原則になじまず、税負担も過大となり、租税理論上、望ましくないものとされる。また、民主主義の「代表なくして課税なし」の原則にも反する。租税輸出の疑いのある地方税は、総務省が厳しくチェックし、電力会社も地域との共生を重視しつつも合理的な態度で臨んでほしい。政府に対しては、所得税、消費税等の基幹税と権限の委譲による、地方の自立を促す政策を望みたい。 原子力施設が立地する地方自治体の間で、原子力安全規制や原子力政策、特にバックエンド政策に関する議論が高まりつつある。しかし最近の議論の柱は、原子力安全・保安院の分離・独立など、組織論に偏りすぎ、規制の内容に十分踏み込んでいないきらいがある。他方で、安全規制は厳しければ厳しいほど良いというものではない。電力会社と規制当局のリソース(人材、資金、時間等)は限られた貴重な資源であり、これが安全上最も重要な分野に、効果的・効率的に使われているかどうか、地方自治体としても目を光らせてもらいたい。「住民感情」などから、合理的でない規制や制約を求めることは、安全性向上に逆行する可能性があることを、自治体も認識してほしい。 バックエンド政策を含む原子力政策は、現在、最も議論が必要な分野であり、また長計見直しの時期でもあり、地方自治体の議論への参加は歓迎されるところである。原子力政策を巡る議論では、これが一地方自治体の問題ではなく、日本全体はもちろん、世界全体の原子力開発やエネルギー供給に大きな影響を及ぼす可能性のあることを認識した議論が望まれる。 民間の知恵と努力で実現を日本における「原子力ルネッサンス」は、政府や地方自治体の役割も小さくないとはいえ、基本的には産業界が自らの知恵と努力で勝ち取り、実現していくべきものである。経済的競争力のある原子力発電の実現に向けて、運転中のプラントについては、設備利用率の向上や長サイクル運転の実現を通じた経済性の向上、長寿命化をにらんだ合理的な保守・補修体制の整備、人材の育成、さらには国民と立地地域から信頼され安心される質の高い運転を行う、健全な企業倫理と安全文化を持った運転会社が不可欠である。 一方、二酸化炭素を放出しない経済的な大規模電源として、将来とも原子力発電所の新設が行われるためには、建設費の低減による経済性の向上が不可欠である。昨年末、電事連が発表した原子力発電所1キロワットあたりの建設費は27.9万円(ドル換算で2287ドル)で、「国際価格」とされる2000ドルを14%上回る。一方、米エネルギー省(DOE)の主導する第4世代国際フォーラム(GIF)の新世代炉では、さらに建設費を低減、1000ドル/キロワットを目指すという。将来とも原子力発電所の新設が行われるためには、1000ドルの目標へ向けた技術革新と建設の合理化が必須だ。 「原子力ルネッサンス」実現へ向け、日本原子力産業会議は自己改革により、産業界の拠り所となり、力を尽くしたいと考えている。新年にあたり決意を新たにするとともに、関係者のご鞭撻、ご協力をお願いしたい。 |