[原子力産業新聞] 2004年1月8日 第2217号 <2面>

[原子力委員会] 2003年度原子力白書から@

50年迎えた原子力利用 原子力発電政 新たな時代の原子力政策

本紙1月6日号1面で既報のとおり、原子力委員会は12月19日、2003年度版原子力白書を公表した。今号と次号では、その概要版から原子力白書のハイライトを紹介する。

第2次世界大戦後、世界の原子力の民生利用が開始されて50年が過ぎようとしている。その間、我が国の原子力利用は着実に拡大してきており、現在では原子力発電は基幹電源として位置づけられている。

しかしながら、東電問題などを契機に、原子力に対する信頼感が大きく損なわれ、特に、これから導入が進められる核燃料サイクルについては、その必要性について疑問が呈されるようになってきた。

また、原子力行政に対する不信から、政策の透明性が求められていること、地元住民を始めとする国民の意見をこれまで以上に適切に反映していくことが求められていることなどから、原子力政策についてはこれまでとは異なるアプローチも必要となってきており、具体的な取組が進められつつある。このような状況を踏まえ、原子力の現状をまとめつつ、新たな時代の原子力政策に対する考え方を示すこととする。

エネルギー政策

我が国のエネルギー政策の基本目標は、これまで安定供給を主眼としてきたが、今日では環境保全・効率化に対応しつつ安定供給を図るという課題を同時に達成しなければならなくなっている。

2002年6月に施行されたエネルギー政策基本法は、エネルギー需給に関する施策の基本となる「安定供給の確保」、「環境への適合性」及びこれらを十分に考慮した上での「市場原理」の3項目を基本方針として定めている。

原子力発電の役割

現在、原子力発電は、2002年度における国内の総発電電力量(9447億キロワット時)の31.2%に当たる2949億キロワット時の電力を発電する基幹電源となり、1次エネルギーの12.6%(2001年度)を担っている。なお、1997年度では、国内の総発電電力量(8950億キロワット)の35.6%に当たる3191億キロワット時の電力を発電しており、1次エネルギーの12.9%を担っていた。

原子力は、@カナダ、オーストラリアなど資源供給国の政情が安定していることA燃料のエネルギー密度が高く備蓄が容易で、発電過程及び燃料加工過程において事実上の備蓄効果が期待できること−−といった理由から不意の燃料供給の削減や中断が生じにくく、その影響が軽減しやすいといった長所がある。また、原子力の利用によって、石油などの他のエネルギー資源への依存度が減ることになり、我が国では原子力発電により原油輸入量の3割を節約していると評価されている。このような原子力のエネルギー安全保障上の長所により、脆弱なエネルギー供給構造を有する我が国において、原子力の役割は大きいものと考える。

東京電力の原子力発電所の検査・点検における不正等の問題により、2003年4月に同社の全ての原子炉を安全点検などのために停止した。同社の原子力発電所は、関東圏に4割以上の電力を供給しており、原子力発電所の停止状態が続いた場合には、早い時期に発電の見通しがたった柏崎刈羽原子力発電所6号機の発電、長期停止火力発電所の再開及び他電力会社からの融通を考慮したとしても、十分な供給力を確保できないことが懸念されたため、官民あげて、節電キャンペーンなどを行うこととした。

結果として、10年ぶりという記録的な冷夏であったことや、原子力発電所の立地自治体の理解により 6基約680万キロワット(柏崎刈羽原子力発電所6号機を含む)の発電を確保できたことにより、停電などの深刻な事態に至ることなく夏期を乗り切ることができた。

電力自由化と原子力発電

電気事業の自由化については、供給システム改革による安定供給の確保と環境への適合及びこれらの下での需要家選択肢の拡大を図ることを目的とする改正電気事業法が2003年6月に成立した。

なお、今次制度改革においては、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、2004年末までに原子力バックエンド事業についての経済的措置等具体的な制度、措置の在り方について検討を行い、必要な措置を講ずることとされており、2003年9月から総合資源エネルギー調査会電気事業分科会において検討が開始された。

温暖化防止と原子力発電

2002年6月に我が国は、温室効果ガスの削減約束を定めた京都議定書を締結した。政府は、この削減約束を達成するための具体的対策を地球温暖化対策推進大綱として取りまとめたが、その中で、原子力発電を地球温暖化対策の観点からも重要な電源であると位置づけている。同大綱では、今後地球温暖化対策との調和と安定供給確保を実現するためには、原子力、新エネルギー等の非化石エネルギーの一層の導入促進が必要であるとしている。また、引き続きエネルギー供給の大宗を占める化石エネルギー間における燃料転換を促進し、効率化への要請も満たしつつ、環境調和型のエネルギー供給構造の実現を目指すこととしている。

ここで、太陽光発電や風力発電など、二酸化炭素をほとんど排出しない再生可能エネルギーの開発に努力することも重要であるが、これらは大量の電力の生産のためには広大な面積が必要であり、発電量が天候や日照に大きく左右されるため、エネルギーの安定供給の面では課題がある。そのため、二酸化炭素の排出量を出来る限り抑制しつつ、国民生活に必要な量の電力を安定的に供給するという観点から基幹電源を選択する場合には、原子力は有力かつ重要な選択肢といえる。

135万キロワット級の原子力発電所1基で石炭火力を代替した場合の二酸化炭素排出削減効果は、1990年度のエネルギー起源の二酸化炭素排出量の約0.7%に相当しており、基幹電源としての原子力は地球温暖化対策においても大きな役割を果たしている。

なお、東京電力における原子力発電所の検査.点検における不正等の問題により同社の原子力発電所を停止・点検することとなった。これにより、昨年9月から本年8月末までの1年間で同社が代替電力として使用した火力発電所から発生した2酸化炭素は約4200万トン-CO2(我が国の基準年における温室効果ガス年間排出量の約3.4%)になると試算されている。この状態が続くと仮定すると地球温暖化対策上の影響も懸念される。


核燃料サイクルの確立を目指して 核燃料サイクルの将来展望

核燃料サイクルの将来展望にあたっては、我が国の原子力利用を3段階の発展段階に分けて、各段階の達成の見通しを考えていくことが適切である。

第1段階は、軽水炉による原子力発電の実用化である。現在では世界最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)を含め、52基の軽水炉が運転されることとなった。このため、第1段階は既に達成されたものと考えられる。

第2段階は、民間事業としての商業用再処理とプルサーマルの実施による軽水炉サイクルの確立であり、現在は第2段階の入口にあると考えられる。これに関して、使用済燃料を数10年程度貯蔵しておき、その時点での将来の社会情勢や技術動向をみて、核燃料サイクルを導入するか、直接処分を行うかといった選択をすればよいのではないかという考えが示されている。しかしながら、仮に将来において選択をする場合には、政策決定の後、実施時点までに相当の準備期間及びコストが必要となることを考慮すると、将来の世代に負担を負わせないためには、現時点から準備を始めることが必要であり、政策の選択の先送りはすべきではないと考える。

第3段階は、高速増殖炉の導入による高速増殖炉サイクルの確立である。我が国としては早急に高速増殖炉サイクル実用化の目途をつけ、第2段階の軽水炉サイクルにより得られると考えられる経験を組み合わせて、第3段階の高速増殖炉サイクルに移行していくことが、エネルギー安全保障などの観点からより有効であると考えている。

核燃料サイクルの確立を目指して

核燃料サイクルは、長期的視野に立ってエネルギーの安定供給を確保するために大きな役割を果たしうるものであること、また、核燃料サイクルの確立には長い年月を要することから、事業の発展のスピードについては柔軟性を持ちつつも、核燃料サイクルの実現に向けて、安全確保、核不拡散を大前提に情報公開や国民との相互理解に努めつつ着実に取り組むべきであると考える。

その中で、高レベル放射性廃棄物の処分について、事業主体である原子力発電環境整備機構が設立され、処分地選定の最初の段階の調査を行うために公募が開始されたことは、原子力発電の大きな懸案であった問題に具体的な解決の道筋を与えるものである。

また、「もんじゅ」を始めとする高速増殖炉サイクルについては、ウランの利用効率が飛躍的に向上するという画期的な効果を有する技術であり、実用化に向けた研究開発を引き続き行っていくことが必要である。


原子力長計と国民の理解 原子力政策円卓会議

1995年12月の動力炉.核燃料開発事業団の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故を契機に、国民の間に不安や不信が高まり、「もんじゅ」の安全確保などに関し、多くの意見、要請、提言がなされた。その中で、原子力委員会は福島、新潟、福井の3県知事による提言を受けて、国民各界各層からの多様な意見を聴取し、今後の原子力政策に反映させるため、1996年3月に原子力政策円卓会議を設置した。同会議は、同年6月及び10月に原子力委員会に対する提言を行った。これらの提言を受けて、原子力委員会は、原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進、新円卓会議の開催等を決定した。

新円卓会議は1998年度については5回、1999年度については7回開催され、延べ83人の招へい者を交えて議論を行った。新円卓会議は原子力に関わる様々な問題、情勢、論点について国民の中のいろいろな立場の人々が公開で率直に意見交換し、その声を政策に反映していくことをねらいとした。2000年2月、新円卓会議の議論を踏まえ原子力政策円卓会議モデレーターより提言がなされた。原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画の策定に当たっては、この提言を受け止めた上で審議を行った。

円卓会議及び新円卓会議を通して、反対、推進の立場を超えて一致した意見、考え方が出されるなど、従来に比べ対話が進み、議論を深めることができたものと考える。

原子力長期計画

我が国の原子力政策は、原子力委員会の定める原子力長期計画を基本的枠組みとし、この基本的枠組みに基づき各府省が具体的な政策の企画立案や実施を行っている。原子力委員会は1999年5月、1994年に策定された原子力長期計画以降の諸情勢の変化を踏まえ、21世紀を見通して我が国が採るべき原子力研究開発利用の基本方針及び推進方策を国民、国際社会及び原子力関係者に明らかにするため、新たな原子力長期計画の策定を決定し、その策定に資するための調査審議を、長期計画策定会議に付託した。

原子力委員会は2000年11月に原子力長期計画をとりまとめた。

国民との相互理解に向けた取組

原子力長期計画では、原子力政策は、国民.社会との関係をこれまで以上に重視し、国民の信頼、立地地域との共生などを大前提として進めていかなければならないと指摘している。ここで、原子力政策を取り巻く状況は1層厳しさを増しており、あらためて国民.社会との信頼関係を再構築するための努力が強く求められている。

そのため、原子力委員会は原子力政策の策定プロセスにおける市民参加の拡大を図り、原子力政策に対する国民との信頼関係を確立するための方策を検討し実施することを目的として、「市民参加懇談会」を設置した。また、学識経験者、ジャーナリスト、オピニオンリーダー等、多様な立場の人々をメンバーとした「市民参加懇談会コアメンバー会議」により、地域での懇談会の開催をはじめ、原子力政策策定への市民参加の拡大を目指した、さまざまな方策について企画・検討を行っている。

これまで、新潟県刈羽村、東京都、青森市、敦賀市及びさいたま市において「市民参加懇談会」を開催した。今後も、年数回の頻度で開催することを予定している。


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